経営年数100年以上の企業の経営スタイルと経営哲学を研究しています。調査・研究成果を発表してゆきます。

経営

第84回:100年超企業10社の言説から特徴を捉える

3)キーコンテンツの分類と経営の6つの要素

経営者の構造化調査の内容から各項目ごとに、重要なポイントを述べている箇所を抽出して、それを経営の6つの要素で分けました。結果は以下のようになりました。

ヒト:25  モノ:16  カネ:20  技術:17  情報:13  経営哲学:33

長寿企業が経営を長らえるのに、どのような問題があって、いかに克服してきたのか。それらの問題の起点が何になるのか。その解決の方途は6つの経営要素の中で、何に関わるのか、という点で分けたものです。件数だけを見ると、経営哲学が最も多くなりました。これは長寿企業の経営の継続性を聞いている質問が主体でありましたので、そのような結果になることは予想できました。
ヒトと経営哲学というのはかなり近い要素です。経営哲学を作るのはヒトですが、それを普遍化し、洗練させ、維持・継続してゆくのは個人ではなく企業です。あくまでも個人の考え方であり、問題意識であるならば、ヒトに従属させているので、ヒトそのものに問題の焦点があります。
ここから言えるのは、経営者達が述べる「長寿企業の経営に大切な要素」では経営哲学が最も大事であり、次にヒト、そしてカネが3番目にきました。ヒトというのもほとんどが経営者に帰結する問題なので、仮にヒトと経営哲学を合計したら58になり、これは全体の47%に上ります。約半数がヒト、つまり経営者のあり方と経営哲学に、長寿企業が経営の継続性の重要ポイントを置いていることがわかります。

84回まで続いてきたこのブログですが、今回で一区切りを迎えさせていただくこととします。
来月、11月には経営史学会で、筆者が「社史の可能性」について研究・発表をおこないますが、それは今回の長寿企業の研究と、経営する出版文化社の750点ほどの社史の制作経験から導き出された発表内容です。
この後は、ここに執筆したブログを再編集して、添削をし、1冊の書籍にまとめて出版いたします。そして、11月に発表する社史の研究についても、続けて書籍にまとめて、出版いたします。どうぞ、このブログで関心を持っていただきましたら、ぜひ、引き続きご厚誼をいただきますよう、お願い申し上げます。
長い間、お読みいただき、ありがとうございました。
皆様の経営が、一年でも、一日でも長く継続し、お客様、社員様とのご関係が末永く続いてゆきますことを、心から祈念し、擱筆いたします。

浅田厚志

第81回:100年超企業10社の言説から特徴を捉える

8.経営者の驕りをいかに防いできたか

人間性は変化します。会社を作った当初は、清い大義名分と強い意志をもっていた経営者も、経済基盤ができ、いろんなところでいい目をするようになると、人間性が変化することがあります。驕り、高ぶり――これは本人が気づけば治まり、本人も他人も組織も傷つくことなく終わります。しかし、驕っているときの本人は、自分の驕りに気づきません。そして、社員や人に対する話し方や態度が徐々に変わります。
「社長待遇というのがあるでしょう。取引先からはちやほやされ、いろんな会合へ行っても上座へ座らされる。こういう待遇に慣れてくると、人間は弱いもので、物事が自分の意図どおりに行かなかったときに我慢できなくなるんです。それを驕りというのではないでしょうか」。このように、具体的に自分自身に「驕りの定義」をもっている経営者は、一種のバロメーターがあるので、驕りに気づきやすいでしょう。
ある経営者はこうも言います。「自分が経営しているというよりも、この期間だけ自分がこの会社を預かっている、と考えています」。こういう考え方ができれば驕りとは無縁の経営者になれるでしょう。
日経ビジネスが1984年に発表した『会社の寿命』で、会社がその命脈を絶やす要因には大きく分けて2つあると言いました。

経営者が変身努力を怠る
無謀な多角化によって、企業の命を絶やす

このふたつは二律背反しています。
変身する努力をしなさい、だが無謀な多角化はダメ、ということです。どの程度を変身努力と言うのか、どこからを無謀な多角化と言うのか、不明瞭です。企業が成長すれば、多角化路線は当たったと言われ、業績が下降すれば無謀な多角化と言われる。だからこそ、謙虚な姿勢と見方を失わないための人間性が必要なのでしょう。
変化することは賢明なことですが、同時に、古きを捨てて新しきを得ることでもあります。ここに語られているのはシステムではなく、経営哲学です。しかし、企業である以上、経営者を驕らせないための仕組みが必要です。先代経営者が長生きする、というのも一つです。しかし、これを仕組みに取り入れることはできません。中小企業にとっては、これを仕組みとして組織に備えるのは容易ではありません。
備えるならば、代表者にモノの言える人を代表者の近くに置く、ぐらいでしょう。社外取締役を採用したり、監査役を強化することもひとつです。長寿企業には長寿するための経営哲学として、伝わっているものは確かにありました。

第77回:100年超企業10社の言説から特徴を捉える

4.なぜ、長い歳月にわたって生き残れたか

この問いに対しては以下のような答えが得られました。

1)繭と糸には相場があって、生糸メーカーは両方から挟まれた立場。製糸業で相場に手を出して潰れていった会社がたくさんあった。当社はコツコツと真面目にやってきた。バブルの頃にも踊らなかった。
2)成文化された社訓はないが、創業時以来の理念、創業の精神を我々のよりどころとしてきた。当社は何のためにあるのか、を問い続けてきた。企業理念を達成するために、事業等があると考えている。長い歴史の中では、さまざまなことに挑戦してきたが、その理念にあわないことをした場合はことごとく失敗している。
3)京都には300年以上にわたって扇子を製造・販売している会社があり、新陳代謝は激しくない業界だった。ただ、値段勝負をしていった会社は潰れていった。当社が転業して選んだ業界がラッキーだった。カレンダーは1年に1回の商売。変化の激しい商売ではないので、勝負のできる機会が少なく、変化しにくい業界だと思う。また、付加価値を訴求しやすい商品だったので、企画の優劣の要素が大きかったのも当社に幸いした。
4)会社にずっと流れている精神は「イノベーション、革新性、規律性」ですが、石油業界の状況も、日本の政治・経済も変化しました。それにあわせて、我々も変化しなければならなかった。よって、一つの精神で経営をするのは難しかったと思う。どのように変化して、生き残るかというと、革新、規律をもつということ。
5)生き残れた理由は2つある。ひとつは姿を変えて、環境に適応できた、ということ。関東大震災のときに、東京支社は倒壊したが、それでも日本から去ることはなかった。もうひとつは、政情や状況に厳しいところでも、行かざるを得ないビジネスだ、ということ。日中戦争が起こった頃は、日本に石油を売っていた。日米開戦になってから、日本政府の要請で日本を去った時期があったが、終戦すると、すぐに日本に再上陸をして、何ができるかを考えた。我々は戦争や地震や革命でも逃げない。That is our lifeなのだ。
6)商品が生活密着の消耗品で、必需品的なものであったのが幸いした。
7)有力な得意先に恵まれた。
8)原料が環境保全型のものを作ったのが功を奏した。今の時代にマッチして、大きな支持をいただいた。
9)歴代の経営者が、その時代に合わせた考え方ができたということ。

取材の分析をみると、最も多いのは「会社が変化した」ということでした。それは外圧で変わらざるをえなかったこともありました。外圧で変わったのは6件。それは業界そのものが存亡の危機にいたったり、市場の変化によって、このままこの業界にいても企業が伸びないことがわかったとき、企業は変化を始めました。外圧に目を背け、ぎりぎりまで変化を先延ばししてきた企業は、変化するときに大きな痛みが伴います。
一方、自ら変化していったというのは8件。これは時代の変化を察知して、自ら変化して行く先の業種業態を目指して、徐々に変化していきました。早いうちに対処を始めているので、時間があり、変化するのに痛みは少なく、社員にも教育、研修を施しながら変化していけるので、会社にとっても、社員にとってもあるべき企業進化の方法であろうと考えられます。
変化の方法は「ヒト」を変えることです。つまり代表者を代えるということになり、大きな痛みが伴います。ぎりぎりまで変化を先伸ばししてきたからです。これは最も大きな変化の方法ですが、次に、業種、業態を変える、というのがあります。本調査では約26%の会社が業種を変えてきたという結果が出ているので、長寿企業の1/4社は業種を変えています。
それほど大きな変革ではありませんが、商品を変えるのもあります。同じ業界にいながら、取扱商品を変えるということです。これならまだ変化は大きくないし、社員が持っている知識、経験も生かせる部分が多いので、社員の戸惑いも小さい。これぐらいの変化で会社が生き延びられたとしたら、代表者に先見の明があり、そういう経営者をもった会社は、ラッキーだったと言えるでしょう。
たとえば、団扇を作っていた会社がカレンダーを作るようになった。これは同じ印刷物なので、団扇を作っていた知識と経験のいくらかは応用できます。しかし、マーケットとしては全く違います。いままで競合したことがなかった会社と競合するようになります。また、団扇は値段の下落が大きく、とくに近年では団扇の骨になる竹も印刷も中国製が多くなっており、日本の印刷会社ではなかなか対応できなかったと言われます。この会社ではカレンダーの会社に衣替えをしていたからこそ、今日があると言われるのは至極納得がいきました。

第73回 アンケート調査から見える長寿企業の平均像

11.経営の継承について

後継者の人選について重要なことは「同族であること」が第1位でした。2位以下には統率力や人柄が入っているので、それらは実力による評価です。経営の継承が上手くできた理由としては「同族経営を続けてきたから」が上がっており39.9%です。つまり、会社としては実力主義を標榜していますが、経営陣は同族で固め、経営権もしっかりと把握するという意図が見えます。よって実力主義は社員の評価に適用しているもので、経営陣および同族者については同族主義を堅持しています。
続いて、先代から受け継ぐ要素として、経営の6つの要素「ヒト、モノ、カネ、技術、情報、経営哲学」に分けて、同族経営者と非同族経営者に重要度を聞いたところ、わずかな差ですが、経営哲学を除いては、ほとんど有意な差が出ていません。経営哲学の重要さには如実な違いが出ており、これは特筆に値します。
経営の後継者から見て、先代からの引継内容で「経営哲学」の重要度を探ったところ、明らかに同族と非同族の経営哲学に対する評価に違いがあります。非同族経営者は経営哲学は自らで構築し、自分の手で練り上げてゆくことを望んでいます。
同族による経営哲学の「重要」と「やや重要である」の合計は82.1%で、非同族は67.7%です。さらに同族の「重要でない」「あまり重要でない」の合計は4.6%で、非同族は7.7%でした。確かに同族・非同族の間に違いはありましたが、非同族であっても2/3以上の経営者が「やや重要」「重要」と答えている事実のほうが特筆されるべきでしょう。
長寿企業でなければ、非同族の経営者がここまで先代から受け継ぐ「経営哲学」を重要と考えないと思われます。長寿企業では非同族企業の経営者であっても、会社が受け継いできた経営哲学を2/3の経営者が支持しています。これは今回の調査が明らかにした重要な気づきです。

第72回 アンケート調査から見える長寿企業の平均像

10.営業と資産運用について

創業時からの明らかな転業率は26%でした。創業時の商品の残存率を見ると、33%は創業時の商品は扱っていません。転業したのは26%で、33%と26%の誤差は転業していませんが、創業時の商品は扱っていないということです。
創業時の商品の販売率が売上高の25%以下が110社で、これは全体の38%です。度数では206社が取り扱いが25%以下、もしくは0%の会社なので、母数の286社で割ると72%です。売上比率が25%を下回っていると主力商品ではない可能性が高いので、ビジネスモデルとしては創業時とは変化していると想定され、約3/4が事業替えをしたと考えられます。これはチャールズ・ダーウィンが唱えた『進化論』に言われる「強い者が生き残ったのではなく、変化した者が生き残った」という定義に合致しています。
一方、創業時の商品が、現在も売上高の50%以上を占めているのは28%で、よほど創業者達に先見力があったか、開発した商品が素晴らしいか。いまだに競合商品を抑えていると考えられます。こういう商品をもった長寿企業は幸せです。
次に、売上と品質のバランスについて、「やや品質重視」と「品質重視」の合計は50.5%と過半数です。これは「やや売上重視」「売上重視」の合計の3倍以上で、ここには長寿企業の特徴が見られます。たとえ売上を伸張できる時でも、品質を落としてまで売上を上げようとしない。これが長寿企業の特徴的な経営方法です。
ただ、約30%を占める「どちらでもない」企業は、明確に「品質重視」とは答えていないので、経営環境、状況によっては「売上重視」のほうに傾く可能性があります。そうすると、50.5対49.5になります。仮に、「どちらでもない」の半分が「品質重視」のほうに傾くと65.5%で約2/3になります。
長寿企業ならではの特徴が出ているのが資産運用です。資産運用をしていないのが66.8%で、2/3は財テクをしていません。残りの1/3は過去にしたことがあって大幅な利益を上げられた会社は4.1%に過ぎません。この中にはいるのは至難の業です。
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