1.長寿企業経営者への構造化調査
「企業は生き物である」
「企業は生き物である」
これは筆者が27年の経営の中で身にしみて体験し、感じてきたことです。企業はそれ自身が一つの意志をもって動き、方向を判断してゆくということです。
創業者がトップにいても、思うようにならないことは多くあります。それは規模が大きくなればなるほど、そういうことを感じるに違いありません。経営者にとって、会社は自分が動かしたいように動かすものではなく、社会の求めに応じて動かすものです。企業が自らの意志をもつようになった時、初めて社会的な存在の公器と言われるようになるのでしょう。
中でも長寿企業は歴史のさまざまな苦境を何度も乗り越えて今日に至っている日本企業群のトップランナー達です。規模のみを問うならば、ここに採り上げた企業よりも大きいところはいくらもあります。しかし、平均の経営年数144年という長きにわたって企業として存続してきている間に、若い企業を生み出す母体となった企業もたくさんあります。ある化粧品メーカーの経営者は言われました。「資生堂さんの創業者は、元当社の従業員でした」。このような話は、長寿企業を丹念に取材していけば、いくらでもあるエピソードです。
これまでの記事では長寿企業を定量面(数値化できる側面)から切り込み、分析しましたが、それだけでは企業の実態は捉えられません。アンケートをよく読み解き、その上で定性面(質をとらえる側面)のヒアリングをすることで、より深い内容にたどり着けます。
この取材を始めるまで、今まで数多くの取材をしてきましたが、定量要素の情報をあらかじめもらった上でインタビューをするという方法はとってきませんでした。ジャーナルの世界では取材の現場でえられる資料と情報が大事で、多くの場合は一発勝負で定性と定量要素を掴もうとします。
今回の調査では定量のヒト、モノ、カネについてアンケートし、ついで定性の技術、情報、経営哲学について取材で聞き出そうと考えました。
うまくいった取材先があれば、いかなかった取材先もありました。筆者自身に出版編集者のスタンスが抜けず、その場での興味・関心に引きずられてしまうことがしばしばありました。出版の分野ではそういう臨機応変さは必要ですが、研究者がそういうブレを現場で生じてしまうのは、失格といわれても抗弁できません。
そのことを思い知ったので、構造化調査というのを導入しました。アンケートとインタビューと、そのアウトプットの内容と方法をあらかじめ規定し、取材でとったコンテンツを定量的に評価する方法を講じました。これを構造化調査として、商標登録をし、商品化しました。