経営年数100年以上の企業の経営スタイルと経営哲学を研究しています。調査・研究成果を発表してゆきます。

後継者

第80回:100年超企業10社の言説から特徴を捉える

7.経営権と株式について                                  

株式については、たいへん意識を高くもっておられるところと、そうでないところに分かれました。意識していない会社は、意識をする必要がないようにするため、ほとんどの株式を親族でもっています。逆に、分散させると、配当を期待する株主がいたり、インセンティブとして社員持株会を作っている場合は配当優先株にして同族者は配当をもらわなくても、社員持株会には配当している、という会社もありました。
株式の所有比率は「会社は誰のものか」を定義しています。日常の経営活動には意識していなくても、いざという時には、株式の所有比率がものを言います。近年、株式時価総額で企業を評価するようになり、株式に対する認識は近年の日本でも高まってきました。
もとは年功序列の終身雇用を重視してきた日本において、株式を誰がもっているのかはあまり重視してきませんでした。株式上場会社でも、海外からのM&Aを避けるため、互いの安定株主作りのために、株式を持ち合ったぐらいでした。
ところが、ライブドアの堀江貴文氏は若手ベンチャー企業の経営者として一世を風靡し、同時に、ニッポン放送株を通じて、フジテレビの経営権へと攻勢をかけたことから、「会社は誰のものか」という問いかけが議論を巻き起こしました。
また、1997年に解禁になった持ち株会社法によって、事業活動をしていない、株式だけをもつ会社が存在できるようになりました。すると、会社で働いている代表者も社員もだれも、その会社の株式をもたずに、親会社が一手にもっている会社も現れ、それまで経営層と株主と社員が一体感の中でおこなってきた経営が変わってきました。
今回、取材した長寿企業には、かつては株式上場にチャレンジし、結果的に上場しなかった会社が2社含まれています。株式上場会社は、米国系の石油元売り会社だけです。そして、株式の多くを親族がもっている会社が圧倒多数ですが、筆頭株主は社員持株会という会社もあります。
非公開株式は流通の手段をもちませんが、相続するには、ひと株あたりの時価で計算しなければならないので、長く利益を出している会社の株式の相続にはかなりの税金を納めねばなりません。一方、納めた相続税分だけの株式配当を得るには何10年もかかる、というケースがあります。そうなると相続権の放棄ということも起こりうるので、企業としては看過していられません。
また、株式について悩んでおられる会社も数社ありました。長年、相続を繰り返すことによって、外部株主が64名にもなってしまい、まだ一度も会社に来たことのない、同族の末裔の株主もおり、本人が誰かすら特定できないケースもあると言います。また、4世代目で5代目の経営者の現社長は、外部に出ていった株式は買い戻していますが、創業者の息子4人が相続をして、その下へと2世代にわたって相続してきているので、かなりばらついており、株式の分散が今後の経営権の問題と重なってくるとのことでした。株式は早くに手を打てば、分散は防げますが、長寿企業は時間が長いだけに手こずっている傾向が見られました。
株式の円満相続には時間がかかります。よって、今の株主の位置づけと内容を支配権に則って、整理してゆくと共に、次の相続のときに、どのように対処するのか、各株主にそのことを確認しておくのは重要なことと考えられます。なぜなら相続が起こるのは一世代、約30年かかるからです。
株主の構造についても早く検討を始めることは、次世代の株主のみならず、会社の次世代の社員と会社の関係を明確にする上でも、たいへん重要であると考えられます。

第73回 アンケート調査から見える長寿企業の平均像

11.経営の継承について

後継者の人選について重要なことは「同族であること」が第1位でした。2位以下には統率力や人柄が入っているので、それらは実力による評価です。経営の継承が上手くできた理由としては「同族経営を続けてきたから」が上がっており39.9%です。つまり、会社としては実力主義を標榜していますが、経営陣は同族で固め、経営権もしっかりと把握するという意図が見えます。よって実力主義は社員の評価に適用しているもので、経営陣および同族者については同族主義を堅持しています。
続いて、先代から受け継ぐ要素として、経営の6つの要素「ヒト、モノ、カネ、技術、情報、経営哲学」に分けて、同族経営者と非同族経営者に重要度を聞いたところ、わずかな差ですが、経営哲学を除いては、ほとんど有意な差が出ていません。経営哲学の重要さには如実な違いが出ており、これは特筆に値します。
経営の後継者から見て、先代からの引継内容で「経営哲学」の重要度を探ったところ、明らかに同族と非同族の経営哲学に対する評価に違いがあります。非同族経営者は経営哲学は自らで構築し、自分の手で練り上げてゆくことを望んでいます。
同族による経営哲学の「重要」と「やや重要である」の合計は82.1%で、非同族は67.7%です。さらに同族の「重要でない」「あまり重要でない」の合計は4.6%で、非同族は7.7%でした。確かに同族・非同族の間に違いはありましたが、非同族であっても2/3以上の経営者が「やや重要」「重要」と答えている事実のほうが特筆されるべきでしょう。
長寿企業でなければ、非同族の経営者がここまで先代から受け継ぐ「経営哲学」を重要と考えないと思われます。長寿企業では非同族企業の経営者であっても、会社が受け継いできた経営哲学を2/3の経営者が支持しています。これは今回の調査が明らかにした重要な気づきです。

第59回:過去10年の経常利益の平均、および同族、非同族と、先代から受け継ぐ要素:情報

長寿企業の経常利益の現状と、先代経営者から引き継ぐ要素として「情報」を大事に考えている経営者の回答を掛け合わせたものです。ここからは経営の利益率と情報への関心の強さに関係があるかどうかがわかります。

59図表

「情報」は外からもたらされる情報だけでなく、社内で生み出して交換される情報、つまり意志決定の経路や会議体のあり方も、情報の仕組みとして考えています。もちろんIT系の情報システムも含まれます。
「カネ」「技術」と比較すると、一目瞭然の違いです。赤字会社以外のグループで「重要」は2位となっています。特に、11%以上のグループで「重要」は、「どちらとも言えない」と同数の2位ですから、「情報」に対する評価は低いと言えます。
数量は別にして、順位だけを捉えると、11%以上の企業では評価が低く、赤字の企業では評価が高い、という結果です。これには何か意味がありそうです。高収益の会社は情報に頼った経営はしていない、ということであり、赤字の企業はいつもたらされるとも限らない情報に頼った経営をしているので、安定しないということでしょう。

59グラフ

同族の「やや重要である」と非同族の数を%に置き換えると、各々48%と43%です。「どちらとも言えない」以下の数字を%に置き換えると、合計で同族が27%、非同族が25%です。いずれも、非同族の人たちの評価が低いと言えます。情報については、先代からいただいても、あまり役に立たない、という認識は同族も非同族も同じですが、若干、非同族のほうが厳しい目に見ているようです。

第58回:過去10年の経常利益の平均、および同族、非同族と、先代から受け継ぐ要素:技術

長寿企業の経常利益の現状と、先代経営者から引き継ぐ要素として「技術」を大事に考えている経営者の回答を掛け合わせたものです。ここからは経営の利益率と技術への関心の強さに関係があるかどうかがわかります。

58図表

全体的に、技術の評価が高い事がわかります。ポイントは「カネ」の時に、11%以上のグループは「カネ」を重要と選んだのは第2位でしたが、この技術では重要を選んだのが第1位になっていることです。2%以下のグループではわずかな差で2位になりましたが、ほかのグループは「カネ」と比べると、1位と2位の差が開いています。今回のアンケートで技術に対する評価が高いのは一貫していますが、それは利益率との関連はありませんでした。

58グラフ

技術については、「やや重要である」と「重要である」の合計の割合が非同族で84%、同族で78%です。若干、非同族のほうが重要に思っているようですが、特質を表すほどの差ではありませんでした。
同族も非同族も同じぐらいに技術は大事だと思っています。ただ、「重要」を選んでいる比率は非同族のほうが多く、全体でも6%多かったので、若干、非同族のほうが技術には関心が高いと言えそうです。
同族は長年の経営でこだわっていること、まとっているものがたくさんあります。経営を維持してゆくのに大事なものは暖簾だのブランドだの信用など、いろんなものがあります。しかし、非同族にとっては、自分が経営している年数が勝負です。その結果として、このような評価になったと考えられます。

第57回:過去10年の経常利益の平均、および同族、非同族と、先代から受け継ぐ要素:カネ

長寿企業の経常利益の現状と、先代経営者から引き継ぐ要素として「カネ」を大事に考えている経営者の回答を掛け合わせたものです。ここからは経営の利益率とお金への関心の強さに関係があるかどうかがわかります。

57図表

この表の1位と2位を見る限りは、11%以上の高収益・長寿企業と10%以下との差が見られます。ただ、ひとつずつを確認してゆくと、10%以下のところは1位と2位が19と17であまり変わりません。11%以上のところも7と6ですからわずかです。
しかし、赤字に向かって行くに連れて、1位と2位の差が開いてゆく傾向があります。
さて、これは何を表しているのでしょうか。利益率が低いグループほど、お金が大事と考えている経営者が多い、ということが言えそうです。

経営にはお金は大事、だけれどもそのために働いているのではない、という考え方があります。「やや重要」が第1位になった11%以上のグループの経営者は、そのように考えているのではないでしょうか。

57グラフ

各回答を選んだ経営者の人数ですので、差異がわかりにくいですが、横帯グラフでみると、比率に大きな差がないことがわかります。母数の大きさに違いはありますが、%で見るとほとんど変わらない。お金については同族も、非同族も同じ見方をしている事が伺えます。

今回の答えの特徴としては、「重要」と「やや重要」に大きな差がなかったということです。お金は企業にとっては「血液」のようなもの。いつも循環し、動いていないと、死んでしまう最も重要なものであることは確かです。しかし、それ自体が目的であるならば、血液であるお金は「やや重要」どころか「重要」を誰しも選ぶことでしょう。そうではなかったところが、成功長寿企業の特徴と言えます。
つまり、平均144年の経営を進めてきた経験から、お金があっても経営がうまくゆくとは限らない、ということをたくさんの事例を見てこられた長寿企業ならではの選択ではないでしょうか。
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