経営年数100年以上の企業の経営スタイルと経営哲学を研究しています。調査・研究成果を発表してゆきます。

同族経営

第27回:家族主義と実力主義と、過去10年の経常利益の平均:ヨコ比較

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 前回のタテ比率と違って、各々の主義の会社には、どういう経営成果の会社が多いのか、というのがわかる図・表です。一つずつ見てみましょう。

「家族主義」の会社は赤字の会社はありませんが、2/3は0.数%~1.9%の範囲にあります。よって、利益率のよい集団とは言えません。
一方、「実力主義」の会社は2%以下に4割があり、5%以下にも4割を超える企業があります。相対的に「家族主義」のほうは低く安定しており、実力主義はよい企業とよくない企業のバラツキがあり、「家族主義」よりは若干高めの経営成果を上げている、と言えそうです。
「やや家族主義」では、73.3%が2%以下と5%以下のところにあり、「やや実力主義」では79%がその範囲にあります。そして10%以下と11%以上では「やや家族主義」が25%,18.4%が「やや実力主義」でした。そして、赤字企業は「やや実力主義」のほうが少し多かったようです。これらを見ると、「やや家族主義」のほうが経営成果は高く、経営が安定していると言えそうです。

筆者は、経営の力学によく遠心力と求心力という例えを使います。遠心力は外に拡がろうとする力ですから、会社が売上や企業の規模が拡大する力のことです。求心力は逆に、中心に向かおうとする力ですから、最終損益に向かっていくので必ずしも売上の拡大を望んでいるわけではありません。家族主義は求心力、実力主義は遠心力と考えられますので、やや求心力が強いぐらいが経営成果としては安定していると言えそうです。しかし、あまりに求心力が強いとそれも困りまして、低成長低利益体質になってしまいます。つまり、社員の雇用を守ることが第一優先になって、会社の利益よりも強い存在意義になります。それは素晴らしいことではありますが、やはり会社としては伸びない。いずれじり貧になってしまう可能性もあります。
このようなことから、「やや家族主義」=やや求心力の強い会社、ぐらいがちょうど経営の進展には適当であることが、この数値から読みとれます。

第26回:家族主義と実力主義と、過去10年の経常利益の平均

家族主義と実力主義の違いと、過去10年の経常利益の平均について、関連性を見るために、カイ2乗検定(理論値と実測値の適合度合い)をおこなったところ、家族主義と実力主義の違いが、黒字年数比率について、有意な差はないということでした。
数値の上では、下記のようになりました。

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家族主義・実力主義の違いと、過去10年の経常利益の関係(タテ比率)

上記の表はタテを100%にして作成しています。この表を見ますと、赤字が最も多いのは「やや実力主義」のところで、「実力主義」と合計すると57.3%。つまり赤字企業はその6割近くが「やや実力主義」か「実力主義」を標榜しています。
一方、「やや家族主義」と「家族主義」をたしても赤字企業は14.3%。「家族主義」の会社に赤字企業はない、ということもわかります。
反対に、11%以上という良好な利益を上げている企業を見ると、35.6%が「家族主義」と「やや家族主義」、「家族主義」に0%というのが目を引きます。「やや実力主義」と「実力主義」を合計すると35.7%とほぼ同じ数字になります。この結果から、「実力主義」は高収益の企業もあるが、赤字企業も多い、という経営成果に大きなブレがあると言えます。一方、「家族主義」は赤字企業は少ないうえに、高収益企業もある、という結果になりました。まさか、こんなにはっきりと特徴が出てくるとは思いませんでした。これは何を表しているのでしょうか?
筆者は、社員と会社の関係が経営の成果を左右していると思います。

つまり、「家族主義」「やや家族主義」は社員と会社の関係は安定していることが予想されます。恐らく簡単に社員を切ったりはしない会社でしょう。反対に、実力主義の会社では社員と会社の関係はドライです。成果が上がらなかったら、配置転換や部署替えなどが起こっているのかもしれません。それを社員が発憤材料と捉えてくれたら会社は活力が出てきますが、逆に作用すると、社員の腰が落ち着かず、結果は思うように経営の成果が上がらない、ということになるでしょう。
また、ここで見逃しては行けない視点は、「家族主義」の会社に赤字と11%以上という企業がないことです。もともと「家族主義」という会社は少ないのですが、その中でも赤字と高収益の企業がないということは、大きなブレはないけれど、高収益企業もない、ということですから、「家族主義」もそこそこのほうがよい、ということでしょう。続きを読む

第25回:家族主義と実力主義

25回グラフ

家族主義、実力主義について、5段階に分けて聞いたところ、図のような結果になりました。家族主義とやや家族主義の合計は19.9%。実力主義とやや実力主義の合計は44.5%。1/5社が家族主義、約2社に1社が実力主義とみることができるようです。長寿企業は家族主義、というイメージが強かったのですが、意外に家族主義は少なく、実力主義が多かったことに驚きました。

多くの回答は経営者にいただいているので、「我が社はこうである」という自身の考え方を述べておられますが、その中には「我が社はこうありたい」という希望を述べておられるケースもあるでしょう。この家族主義と実力主義に他の要素を掛け合わせて分析すると、徐々に希望の部分が剥がれ落ちていくのがわかります。家族主義がよいのか、実力主義がよいのか。それについては、この後に続く分析で少しずつわかってきます。

温情的家族主義経営を標榜した鐘紡の中興の祖・武藤山治(慶応3年生まれ)は米国留学の経験をもち、米国の経営学者・テイラーの経営管理手法を鐘紡に導入して疲弊していた鐘紡を建て直しました。そして社員の福利厚生を厚くし、社内報を日本で最初に発行するなど、独自の経営手法と労使関係を築き、多くの会社に影響を与え、日本的経営の元祖と言われました。その後、子息・武藤糸治氏の跡を継いだ伊藤淳二氏の下で、鐘紡はカネボウとカタカナに社名を変えて業態転換を図りました。一時期は伊藤氏の経営がもてはやされましたが、内実ではカネボウの経営は粉飾にまみれ、2004年に倒産へと至ります。その伊藤氏は1987年まで日本航空の会長をしていました。

一方、現在、日本航空の会長をされている稲盛和夫氏は大家族主義経営を標榜されています。大家族=大きな家族という意味で、血縁の家族ではなく、他人同士でも家族のように喜怒哀楽を共にしてゆく、ということです。それを具体的な考え方としてまとめた「京セラフィロソフィ」、そして高度な管理会計を実現した「アメーバ経営」の二本立てで京セラという高収益企業を作り、それらの経営手法を導入した日本航空の2010年度決算は世界航空会社でトップの経常利益をたたき出し、V字回復の原動力になりました。

また、現代は米国MBA式の経営がもてはやされる時代でもあります。目標設定と管理会計を組み合わせたシステムで経営をするMBA方式に、家族主義的な考え方が入り込む余地はありません。

長寿企業の経営者達は、このような先人が経験した家族主義と、新しい時代の要請である実力主義の間で揺れ動いているのでしょう。その迷いが33.8%の「どちらでも無い」という3人に1人を生みだしているようです。

第22回:経営上で重視する分野

これは経営者に7つの質問をして、それに対する答えを、ヒト、モノ、カネ、技術、情報、経営哲学に分けたものです。下記が得点数と平均点でした。

質問は

 :過去の経営危機はいつ、どのようなものだったか
 :経営の危機をどのように克服したか
 :なぜ、長い歳月にわたって生き残れたか
 :よい経営には何が必要か
 :よい経営の継承の仕方、後継者の選び方
 :経営権と株式について
 :経営者の驕りをいかに防いできたか

というものでした。

ヒト:4.0 モノ:3.8 カネ:3.9 技術:4.1 情報:3.3 経営哲学:3.9

技術がわずかですが第1位になりました。技術は今回に行った経営者アンケートの質問「後継者として、先代から受け継ぐ重要なこと」でも6項目の中で第2位に入っており、今回の調査では経営の構成要素の中で高い位置を占めました。これは調査での大きな気づきでありました。
いままで経営の重大要素はヒト、モノ、カネと言われてきた時代から、新しい経営の構成要素が認識されている時代が始まっています。それだけマーケットや企業間での優勝劣敗や下克上が激しくなり、かつてのように、取引実績や人間関係、ブランドだけで注文をとることが厳しくなっていることを反映していると考えられます。老舗企業の経営者は、そのことを敏感に感じとって、「技術」「創意工夫」で勝負しなければならない、という認識を示したのでしょう。
技術と言っても、製造業に限りません。飲食業でも、調理の技術や顧客接遇の技術で、独自の方法を行っている企業があります。営業では販促や販売の技術、というのもあります。これは他社との差別化の最たるポイントと言えるでしょう。

そういえば私が所属しております出版業界でも、中公新書で一時代を築いた中央公論は倒産して、読売新聞の傘下に入りました。いまは著者の名前で本を買う人がほとんどで、出版社のブランドで本を選ぶ人は限られているでしょう。「同じテーマなら、値段が高くても岩波文庫を選ぼう」と考える人は、かつてはおられましたが、いまはどれぐらいおられるでしょうか。
ましてや講談社を、小学館を「同じ著者ならこの出版社を選ぼう」という読者を探すのは至難だと思います。出版業界はまだ日本語という非関税障壁で守られて、外国と勝負をすることはほとんどありませんが、他の業界では日常的に国内外での競争に曝されています。いま、技術による優勝劣敗があらゆる業界で起こっているのではないでしょうか。そこで技術にこだわっている長寿企業の戦略は、さすがだと言えます。

第20回:貸借対照表の何にこだわっているか

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それにしても、ここまで自己資本比率に集中するとは考えていませんでした。「企業の価値は要するに自己資本比率でしょ」と長寿企業の皆さんから言われている感じがします。これは経営の安全性、安定性を何よりも一番に考えているということです。
自己資本比率を上げるには、利益を出して、利益準備金などを蓄積してゆくこと。次に、社長や外部の法人、個人がお金を出して、新株を買って増資をしてゆくこと。この二つです。
取材をしたある長寿企業は、血縁3代目の社長さんですが、「株は全部親族がもっているので、配当する必要がありません。利益はそのまま残るので、無借金ですし、自己資本比率は70%を超えています」と言われてました。普通の同族企業は逆なんですね。全部同族で株をもっているから、配当を全部手にして潤っている、ということです。
取材をした長寿企業ではない運輸関係の会社は、創業者の先代から会社を継承したときには、自己資本比率はヒトケタ台で潰れかかっていたらしく、そこから30年たち、現在は65%までもってきたと言われてました。資本金は1,100万円ですから、それほど大きくありませんので、新株発行ではなくて、利益を出して蓄積してこられた、ということがわかります。素晴らしい2代目さんです。

当社・出版文化社は、最初に資本を出していただいた方々が8人おられ、亡くなられて買い取っていきましたが、現在も当時の外部株主さんが2人おられます。それに10年前に社員持株会を発足させましたので、ほぼ毎年、配当金を出してきました。時には株主さんに再投資をしていただくために、50%の配当をしたこともありました。よって、利益の蓄積はあまり大きくはなく、自己資本比率は20%程度です。今年は新株を発行する計画をしており、増資による自己資本比率をあげることを考えています。
こだわりの2位には流動資産がきています。現金、および1年以内に現金化できる資産がいくらあるか、ということに関心があるということです。第3位には長期借入金を代表とする借金への関心の高さとなりました。近年は税務当局の指導により1年未満に返済する借入を流動負債、1年以上にわたる借入を固定負債に入れるようになったので、より明確になりました。
著者プロフィール

浅田厚志

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