経営年数100年以上の企業の経営スタイルと経営哲学を研究しています。調査・研究成果を発表してゆきます。

マネジメント

第57回:過去10年の経常利益の平均、および同族、非同族と、先代から受け継ぐ要素:カネ

長寿企業の経常利益の現状と、先代経営者から引き継ぐ要素として「カネ」を大事に考えている経営者の回答を掛け合わせたものです。ここからは経営の利益率とお金への関心の強さに関係があるかどうかがわかります。

57図表

この表の1位と2位を見る限りは、11%以上の高収益・長寿企業と10%以下との差が見られます。ただ、ひとつずつを確認してゆくと、10%以下のところは1位と2位が19と17であまり変わりません。11%以上のところも7と6ですからわずかです。
しかし、赤字に向かって行くに連れて、1位と2位の差が開いてゆく傾向があります。
さて、これは何を表しているのでしょうか。利益率が低いグループほど、お金が大事と考えている経営者が多い、ということが言えそうです。

経営にはお金は大事、だけれどもそのために働いているのではない、という考え方があります。「やや重要」が第1位になった11%以上のグループの経営者は、そのように考えているのではないでしょうか。

57グラフ

各回答を選んだ経営者の人数ですので、差異がわかりにくいですが、横帯グラフでみると、比率に大きな差がないことがわかります。母数の大きさに違いはありますが、%で見るとほとんど変わらない。お金については同族も、非同族も同じ見方をしている事が伺えます。

今回の答えの特徴としては、「重要」と「やや重要」に大きな差がなかったということです。お金は企業にとっては「血液」のようなもの。いつも循環し、動いていないと、死んでしまう最も重要なものであることは確かです。しかし、それ自体が目的であるならば、血液であるお金は「やや重要」どころか「重要」を誰しも選ぶことでしょう。そうではなかったところが、成功長寿企業の特徴と言えます。
つまり、平均144年の経営を進めてきた経験から、お金があっても経営がうまくゆくとは限らない、ということをたくさんの事例を見てこられた長寿企業ならではの選択ではないでしょうか。

第54回:後継者として、先代から受け継ぐのに重要なこと

後継者として先代から受け継ぐのに重要なことを聞いたところ、ここでも技術は高い位置にランキングされていました。

第1位:ヒト
第2位:技術
第3位:カネ
第4位:経営哲学
第5位:モノ
第6位:情報


技術はカネよりも大事に考えられており、モノは5位に低迷しています。その間に技術と経営哲学が割り込む形になりました。この順位はたいへん示唆に富んでいます。

第22回の「経営上で重視する分野」の調査結果でも、ヒト、モノ、カネ、技術、情報、哲学の中では下記のような結果になりました。

ヒト:4.0
モノ:3.8
カネ:3.9
技術:4.1
情報:3.3
経営哲学:3.9


ここではわずかながらも技術がヒトを抑えて、第1位になりました。これが新興企業やベンチャー企業の答えなら予想もできますが、まさか平均144年の長寿企業が技術に重点を置いているとは考えておりませんでした。では同じ企業に、20年前にアンケートをしても同じ結果が出たでしょうか? 予想ではありますが、技術ではなかっただろうと思います。

今日、かつてのような系列取引や長年の取引を頼みの綱にして経営、営業をしているだけでは、競合の激しい時代に破れる、という危機感が長寿企業の背景にあると思います。自社独自の技術や商品・製品、競合社と差別化できる何らかの特徴がなければ、長寿企業といえども生き残れない、という経営者の厳しい環境認識が見えてきます。

第32回:事業の先行きが厳しくなったときの対処方法


対処方法を聞いたところ、以下のような順位になりました。

第1位は顧客ターゲットを変えた
第2位は商品を変えた
第3位は原価を大幅に低減した


選択肢は以下のものでした。

1. 商品を変えた 2. 品質を変えた 3. 販売エリアを変えた
4. 売値を変えた 5. 販売ルートを変えた 6. 顧客ターゲットを変えた
7. 原価を大幅に低減した 8. 会社の規模を縮小した
9. 従来のやり方を貫いた


事業の先行きが厳しくなってきたときに、まず最初に行うのは、商品を変えずに、品質・販売エリア・売値・販売ルート・原価も変えずに、顧客ターゲットを変えた、という答えでした。これには唸りました。同じものを違った顧客に売るというのはそう簡単ではないように思います。それよりも、売値や販売ルートを変えるほうが、はるかにやりやすそうなのですが、長寿企業は、まずは顧客を変えたわけです。
たとえば、和菓子を作っているとします。それをいままでは中高年齢の方々に売っていたのを、そういう一般顧客ではなく茶道教室に売るとか、若い人たち向けに販売するようにした、ということです。なかなかの行動力だと思います。

次に、商品を変えたということでした。顧客を変えずに、同じ顧客に別の商品を売るということです。自社の商品が長い時代の間に、他の商品に置き換わったり、他社に奪われたり、ということが起こった場合のことです。たとえば、刈谷市にあるシマツ株式会社では、安政年間に業務用の手袋を販売していたそうです。1920年代に豊田自動織機製作所が開業したときに、業務用手袋を納入していましたが、いまでは安全衛生保護具を豊田系の会社に納入する会社になっています。最所は「手」だけを相手にしていたのを、頭、足、身体へと拡げて行かれたということです。こういう変化の仕方もありました。

第3位には、原価を大幅に低減したというのが入りました。原価を低減した、ということはそれによって販売価格を下げて、顧客により多くを買っていただいたのか、競合他社に競り勝っていったのか、ということです。同じ商品を、品質を変えずに、原価を下げるのは、原料の仕入れ先にお願いをして仕入れ価格を下げていただいたか、原料や製造工程の見直しなどの創意工夫によって原価を下げたということです。
原価を低減して、粗利率を上げたということになると、それは競争優位に立っているときの対処法ですので違います。

また、それは商品を変えることよりも、変更内容はマイナーチェンジでいけます。販売する商品を変えることは、流通業ならやりやすいですが、メーカーですと乾坤一擲の勝負になります。仮に、あらたに開発した商品が当たったとしても、その商品に関わっていた今までの設備や人材が使えなくなる可能性があるからです。いままでの設備や人材を活かすことを考えると、やはり顧客を変えるか、販売ルートや販売エリアをかえることのほうが、はるかにやりやすいと言えます。
長寿企業の変化は、やはり粘り強いことがわかります。

第19回:損益計算書の何にこだわっているか


長寿企業がこだわっている損益計算書の項目は1位と2位に利益関係が上がっており、売上よりも利益が大事と考えていることがわかりました。それは成長よりも、事業継続を大事に考えている傾向が強い、と解釈できます。調査対象企業はすべて非上場会社なので、利益を出して、株主に還元する、という差し迫った必要はありません。それでも利益にこだわっているのは、企業を永続することこそが、最大の目的ということです。営業利益から当期純利益までを合計すると213件、全体の66%で、実に2/3社が利益に一番にこだわっていると答えています。

思い出しますと、アマゾンやソフトバンクは初期のころ、なかなか利益がでない時代がありましたが、綱渡りの資金繰りをしながらも、売上重視で走っていました。ジェフ・ベゾス氏と孫正義氏は天才的な経営者ですから、その時代に企業を急拡大させて、その後、利益がでる経営へと移行していきましたが、多くの企業は、その過程で潰れてゆきます。
逆に、長寿企業の売上に対するこだわりは18.6%です。5社に1社もありません。売上を追ってはいない、ということを多くの長寿企業が明確に打ち出しています。会社の業績には、(1)増収増益 (2)減収増益 (3)増収減益 (4)減収減益の4つがあります。(1)はもっとも経営者にとって経営しやすい業績であり、環境です。打つ手の多くが当たり、会社も社員も活気づいて、社員がもっていたさまざまな不満も、(1)の状態で有れば昇華してゆきます。長寿企業を含む、ほとんどの企業は、こういう状況になることを望んでいます。
一方、(4)の状態は、固定経費や販管費を削減する、または社員数を減らすか、起死回生のヒットを打つなどの方法で挽回しないと立ちゆかなくなります。会社の雰囲気が悪く、社員が退職してゆき、残った社員の仕事が増え、不満が溜まっています。ヒト、モノ、カネ、技術、情報、哲学に、何らかの手を打たないと、ズルズルと後退するばかりになります。
残るは(2)(3)です。多くの企業はこの2つのいずれかの状態にあります。概ね横ばいと言っても、数字を厳格に解釈すると、どちらかに入ります。この2つのうち、長寿企業のほとんどは(2)を選びます。なぜなら、企業の存続を考えたとき、売上は伸びるけれど、利益が減っているのは危ないからです。売上が伸びるときは、資金の回転が速くなっているはずです。早くしないと回収遅れは資金ショートの危険が増し、企業のリスクが増大することになります。
一方、(2)の状態は利益は確保できているなら、資金の回転は急がなくても、ゆったりと資金繰りができます。取引先の都合に合わせることができるので、より円満な取引ができることにもなります。ただし、売上が伸びない以上、組織の拡大はありませんので、社員のポストは増えません。売上が増えないということは仕事が増えていないので、若い人や新卒を採るのも難しく、会社の平均年齢は毎年1歳ずつ上がります。長寿企業では社員への精神的なケアに注意が注がれており、イコール社員を大事にする、という社風が育つのは、このような経営数値のこだわりからも、読みとれることがあります。

第17回:長寿企業における労働組合の有無と同業他社に比べた過去の収益状況の関係

比較グラフ

経営者は、自社が同業社の中でどういう位置にあるのかについて、強い関心をもっています。それは日頃から、いろんな情報を集めている中で、つねに自社の状況と比べているからで、収益性についても、同業他社の経営状況の情報をしっかりもっています。そのような背景から、労働組合の有無と、同業他社との収益比較を聞いてみました。

これを見ると、労働組合が有る企業では収益状況が「非常に低い・低い」と答えた企業は33%で、無い企業では16%でした。倍の差が出ています。また、収益状況が「高い・非常に高い」で有る企業は25%、無い企業は36%で、収益性が高いと答えた企業も、労働組合が無いと答えた企業のほうが多数でした。

前回第16回の経常利益平均の結果と比べると、若干、違いが出ています。過去10年の経常利益平均では、有る企業の3%以上の利益を出している企業が多い、という結果が出ているからです。つまり、3%以上の利益は出ている企業でも、同業他社はもっと利益を出している、という見方をされているのでしょう。

同業他社と同程度以上の経営成果を出していると答えている企業(経営者)は、有る企業で67%、無い企業では84%です。ここにも違いがあらわれています。労働組合の無い企業のほうが、よい経営をしており、有る企業のほうは厳しい経営状況にあると、経営者は考えているようです。

創業から伸び続けているソフトバンクや楽天には労働組合はありません。どちらも創業者の強いリーダーシップで牽引されている会社です。社員数からすると労働組合があって当然の規模ですが、結成しない(させない?)のですね。歴史と蓄積のある長寿企業でも、労働組合の有無によってこういう業績差が出てくるので、若い企業もそのことを学んでいる節があります。
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