6.よい経営の継承の仕方、後継者の選び方                          

役員と管理職の違いは歴然としています。役員に就任したということは、経営に直接関与し、影響を与える立場にあるということです。そのような内容と責任について、どこの場で教育を受けるのでしょうか。それは実際には、役員会に出席するようになって、そこで他の役員の話を聞くなかで、徐々に議論に参加して、勉強してゆきます。企業の代表者の座も、それと同じように継承されていくようです。
今回、取材をした長寿企業の全てで、「経営を引き継ぐのに特別な教育、研修はありましたか?」という問いに首を縦に振られた会社はありませんでした。それは細かな経営ノウハウを伝授するのではなく、月々の活動の中で先代経営者の考え方や会社の考え方を見ておき、あとはトップになった本人が創意工夫しながら経営を行うものだ、というように考えられているからです。経営の継承の方法として、「社長と一緒に仕事をして」という答えが、アンケートの答えにも圧倒的に多かったゆえんです。
今回取材をした世界最大の民間会社と言える米系会社の日本の代表者の引継についても、「マニュアルらしきものは無い」と言われました。共に仕事をする時間はあり、OJTで引き継ぐ。そして、その時代のトップが自らの才覚でマネジメントをしてゆくということでした。
後継の家族を一系統だけではなく、複数以上の系統に分けて、中では「本家」や「分家」と言い分けをしているようですが、実際には、その中からもっとも適当と思われる後継者が経営を継承してゆくので、そのような形で後継者を生みだし、育ててゆく方式をもっているところが多数でした。その中で互いに競争も出てくるので、いい人材が育ってくる、という同族は切磋琢磨の組織でもあるという考えでした。
後継者が跡を継いだ後に、先代経営者はどうしているかというと、元気で、社長の経営の邪魔はしないけれど、気にはかけている、ということを伝える程度の経営への関与はしていました。よって、先代経営者が長生きしている方が、安定した経営をおこなっています。新社長のバックアップになり、時には番頭達との間に入って調整することもあります。元気な間に経営を渡し、そのまま長生きをして経営を監視したり、調整役を果たしたりしながら、バックアップをする。これは不安定になりがちな経営の継承時期を安定させる重要なメソッドであると考えられます。
人類の歴史をたどっても、同じ傾向が見られます。アメリカの進化生物学者のG.C.ウイリアムズの「おばあさん仮説」です。ウイリアムズは女性が閉経する理由を、以下のように述べます。

1)出産を続けると死のリスクが高くなる
2)子孫の世話をすることで、(息子、娘達の)新たなる子孫を作る手伝いをする。それによって子孫を増やすことの方が効率的と考えるようになった

肉体的には40歳代で閉経する根拠はないそうです。にもかかわらず閉経するようになったのは、閉経後の新たな役割のために、人類が選択した道だといいます。※1
この仮説を企業の経営の継承になぞらえると、先代経営者自らが時間をかけて会社を大きくするのではなく、早めに引退して、次の世代を助けることによって、会社を育てていくという経営手法に置き換えられます。後継者も先代経営者が過度に口を出すのは困りますが、適当なアドバイスや調整をしてくれる程度の関与は、有り難いと考えているようです。
                                              
※1:G.C.ウイリアムズ『生物はなぜ進化するのか 』(1998),草思社