5.よい経営には何が必要か

「よい経営をしてゆくには、なにが必要か」を考えるとき、長寿企業の経営者は、どのように答えるのか、という興味深い考察です。
ある経営者は、一貫して継承されてきているのは、「経営は利益のためでも、金儲けのためでもないということです」と言われた。同社の経営目標があって、それを達成するために経営しており、また結果として税金を払うことも、企業の役割である、という認識を役員会で共有しているとのことでした。かつてはその方針に異議を唱えて、多くの税金を払うぐらいなら使ってしまおう、と考える人もいたそうですが、税金を払った後に残ったお金こそ、会社のBSをよくしてくれるので、多くの税金を払うことは会社の体力を付けることと同義である、という考え方に同社は立っています。
また、ヒトの扱いについては、優秀な社員がいれば早いうちに仕事を任せて自立させるようにもっていくのがよい、と先代から伝授されている経営者がありました。その会社は100年の歴史で赤字を出したのは2回だけで、一度は新規事業に投資をするために赤字は織り込み済み。経営の失敗による赤字決算は100年で1回だけです、と言われました。地方都市が本社の会社ですが、100年になるので戦災にも遭っています。そういう中でのこの経営成果は素晴らしいの一語に尽きます。
「時代の波に乗る」と答えた経営者は、さらにこのように付け加えました。「いくら社長に力があっても時代の力にはかなわない。時代の流れに乗ることが大事で、それも社長の力です」 
また、言葉は変わっても、決算の内容、特にBSをよくしてゆくことを述べている言葉が多く、PLではないところが長寿企業らしく、納得がいきます。経営年数の短い企業や代表者はどうしてもPLのほうに目と関心がいく。「ほとんどの株をもっているから、株式配当は必要ない」と答えられたのは、全く虚をつかれた思いがしました。一般的には逆です。ほとんどの株をもっているから、配当金のほとんどは自分たちに入ってくるので高配当をしたい、という論理です。しかし、この長寿企業は他の株主への配慮は必要ないから、配当はしない、という方針を貫いてきました。また、「顧客と5年、10年ではなく、2代、3代とお付き合いができる関係を作る」という答えは、長寿企業ならではでした。
さらに、創業者が篤志家で、地元にいろんな面で貢献されているので、いまでも「君ところの祖父さんは偉かったね」と言われ、「現在も創業者の人徳で仕事をさせてもらっています」と58歳の社長が答えていました。陰徳を積む、というような表現も、創業20年や30年の経営者にはなかなかもてない感覚で、長寿企業の代表者ならではの考え方でした。
よい経営に必要なのは、「経営者がよい格好をしないこと」と答える経営者がありました。いま羽振りが良くても、過去の蓄積のほうが大事であり、それは一朝一夕ではできない。相手がどれだけ派手なことをしていても、今だけだと思って羨ましく思わない。どんなに逆立ちしても、過去を変えることはできないという、長寿企業としての自負と自信が明確に伝わってきました。また、「PLは現在で、BSは蓄積であり、歴史です。だから企業は歴史が大事なのです」という言葉には、長寿企業の哲学が表現されていました。
良い経営に欠かせないもう一つのポイントは、社員と経営情報の共有化を行うことです。多くの長寿企業で、株式上場会社並みの経営情報が社員に伝えられている実態を伺いました。ある会社では、経営情報はもちろんのこと、役員会議や組合との経営協議会、部長と参与が入る参与会などの会議内容も社内のイントラネットで読めるようになっているとのこと。「徹底的に情報を開示しているからこそ、厳しいときには厳しいなりの話ができる」という話に、良い経営というのは日々の経営の仕方そのものが大事なのだ、と教わりました。