3.経営危機を、どのように克服したか

この質問に対して、下記のような答えが得られました。

1)初代が2/5代目を辞任させ、弟の3/5代目に継がせた。
2)亡くなる直前に、父である3/5代目の経営者が、カルト集団に入っている長男である4/5代目を経営者からを辞任させ、弟の5/5代目をトップにした。
3)銀行がつぶれかかっていた当社に新たな融資をして、資金をつなぎ、再建のチャンスを与えてくれた。しかしそれは銀行の判断と言うよりも、その時の担当者であった次長が動いてくれたことが大きかったと考えている。
4)1911年に創業した製糸業はとうとう1990年に廃業した。徐々に事業を縮小して行き、人を自然減で減らすようにした。最後に残った人たちは高齢者だけだったので、閉鎖するときに問題にはならなかった。
5)本業を徐々に縮小していきながら、不織布を使用した製品の開発や不動産業への転業を進めていった。現在も社名には製糸を入れているが、製糸業はまったくしていない。
6)株式上場の計画を進めている最中だったが、リーマンショックで中止した。本社を移転して経費を削減し、プラスアルファのプロジェクトや計画もすべて中止した。
7)法律が改正されて、立場が悪化し、利益は縮小したが、耐えられるだけの大規模な土地をもっていたので、経営的な問題には至らなかった。
8)代表者の背任・横領の疑義ははれ、仕手株戦もおわって、通常の業務にもどった。
9)震災の復興と共に、本社、工場ともに従業員と復興していった。
10)関東大震災のときの教訓を生かし、製品の一部を山間部に疎開させていた。戦後、それを元手に再興を果たした。
11)他社に市場を奪われるままに、ビジネスを縮小していき均衡を図った。
12)男性用整髪料の収益による蓄えがあったので、東京の土地や資産を売却して、縮小均衡を図った。
13)自社の売上急減の心配をするよりも、お客様のビニルハウスを一日も早く建て直すことを最優先に置き、社長である自分が対策本部長に就任。自社の工事担当50人に、全国から職人を150人集めて、200人で年末までに再建をおこなった。事務や営業にも再建を手伝わせ、全社員一丸となって年末に間に合わせた。
14)製品に事故が起こり、包み隠さず、洗いざらいをお客様に報告することによって、対処につとめた。克服されたとはまだ言えないが、誠心誠意、この後は仕事をすることによって信用を回復してゆくしかないと考えている。
15)東京都北区の自宅を事務所代わりにしてやり直した。それ以来、本社は北区に置くようになった。
16)瀧野川信用金庫に仕入れ先に支払う前金を借りられたので、商売を続けることができた。

アンケートを返していただいた企業の平均の経営年数は144年でした。144年というと、明治維新前の創業で、坂本龍馬が襲われた寺田屋事件が起こった年です。これらの企業はたいへんな時代を過ごし、経営を継続してこられたことに、心からの敬意を表したいと思います。

攻めには強いが、守りに弱い――これは一般的な企業の姿です。なぜなら企業の始まりは、何らかのモノやサービスを売ることから始まるので、売り方はわかっています。「販売無くして、企業無し」と言われる所以です。
長寿企業の危機克服方法の特徴は、問いの「経営危機を、どのように克服したか」に対して「一発逆転」という施策が見られないことです。経営年数の短い企業は、経営の数字が落ち込んだとき、この「一発逆転」をしたがります。経営が弱っている時なので、方法を間違って成果が得られなかったら、その時点で企業は終わる、たいへんリスクの高い選択です。

守りに強い――これが長寿企業に備わってきた特性であることがここからわかります。項目を分析すると、問題を解決するときに大事なのは、ヒトとカネで、これらが不足している場合は、経営危機を克服するのはより困難になる、ということです。発生した経営危機はほとんどを先代経営者か、当代経営者が自ら解決に動いています。また、金銭的な問題であった場合は、資産の売却によって欠損の穴埋めをするか、銀行の力を借りて危機をしのいでいます。
一方、経営危機の時には、技術や情報はほとんどあてになりません。平時に経営を伸ばしたり、製品を改良したり、という場合には、技術や情報は活躍しますが、経営危機を乗り越えるときには、ほとんど出番がないと言えそうです。
また、モノと経営哲学に関する項目が各々5つずつ出てきています。これらが経営危機を克服するのに、役割を果たしてくれることがわかりました。特に、経営哲学は経営危機の時に経営者が物事に対処してゆく際の羅針盤になります。この経営哲学がしっかりしておらず、経営者が弱気になると、危機を克服する強力な手が打てず、ずるずると後退して体力を落としてゆくことになります。企業も経営者も順風の時は長所がプラスに働きますが、逆風の時には短所が目立つのです。