先代経営者から当代経営者はどのようにして経営を引き継いだか、という方法については、一緒に仕事をしてが73.8%、口伝は18.0%、社史を使った例は3.5%でした。ほとんどの会社では、長年、先代とともに仕事をしてきたので、その中で経営の方法や考え方が引き継がれてきたようです。

一代の経営期間はおよそ40年であるという試算を第44回の時にしました。それは30年が一代の経営者としてのピークだとすると、2代目以降には前後に継承される時代と、継承する時代があります。成功長寿企業は経営の継承がうまくいっているケースが多いからこそ、経営が順調です。その前後の時代をどのように前任者と後継者が過ごすか、というのはたいへん重要な時代で、この善し悪しによって、経営の継承の正否が決まります。成功長寿企業は、そこのところを上手にできたからこそ、今日につながりました。
一緒に仕事をして経営を継承したのが3/4で大半を占めます。そして口伝と社史ですが、直接に語って引き継がれたことは、「一緒に経営をして」ではないことから、一子相伝のように先代から後継者へ語って引き継がれています。いまでもこういう引継方があることに驚きました。
 また、少ないですが社史を媒介にして経営を引き継いだ、というケースがありました。社史はそれを作る途上で、先代と後継者が歴史認識を交換したり、共有したりする機会があり、経営の継承が同時に進められる、ということは社史を作っておりますとまれに遭遇します。また社史で取り上げる時代を、先代の時代までとして、社史発刊を先代の花道とする方法をとられる企業もありました。
一代平均で40年の経営期間があると考えると、前任者と後継者が重なって働く期間も長くとれます。その期間こそ、次の代を繁栄に導く役割を担っているのではないでしょうか。

今回のアンケートには、日本で120年余り事業活動をしてきた、世界最大の民間会社エクソン・モービル有限会社も対象となっており、アンケートの回答をもらい、トップのインタビューもいたしました。その時に、米国系の企業で、巨大な組織だから、経営のマニュアルが用意されていると思って聞いたところ、そういうものは無い、と断言されました。次いで、経営の継承について尋ねたところ、「一緒に経営する期間をおいて、引き継がれる」と答えられ、日本と変わらなかったのを思い出します。
400万年前、いまのエチオピア当たりで生まれたホモサピエンスは、なぜ彼の地から地球の隅々までの遠い旅路へと着いたのでしょうか。それは夫婦の妻が長生きして、娘に出産の危機を乗り切る方法を教えられるようになったからだと言われています。つまり、人口が急速に増加したことによって食糧危機に見舞われ、他の地を求めて歩き出したわけです。そうして、人類は今日に至る長い旅を続けてきました。

先代の長生きが、次世代をバックアップすることで、スムーズな運営を助けることは、私たちの経営の継承にも言えるのではないでしょうか。先代経営者が長生きをし、後継者とよい関係を保って補佐する態勢を作れるか否かは、まさに企業の「経営継承力」が問われているのだと思います。