家族主義と実力主義の違いと、過去10年の経常利益の平均について、関連性を見るために、カイ2乗検定(理論値と実測値の適合度合い)をおこなったところ、家族主義と実力主義の違いが、黒字年数比率について、有意な差はないということでした。
数値の上では、下記のようになりました。

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家族主義・実力主義の違いと、過去10年の経常利益の関係(タテ比率)

上記の表はタテを100%にして作成しています。この表を見ますと、赤字が最も多いのは「やや実力主義」のところで、「実力主義」と合計すると57.3%。つまり赤字企業はその6割近くが「やや実力主義」か「実力主義」を標榜しています。
一方、「やや家族主義」と「家族主義」をたしても赤字企業は14.3%。「家族主義」の会社に赤字企業はない、ということもわかります。
反対に、11%以上という良好な利益を上げている企業を見ると、35.6%が「家族主義」と「やや家族主義」、「家族主義」に0%というのが目を引きます。「やや実力主義」と「実力主義」を合計すると35.7%とほぼ同じ数字になります。この結果から、「実力主義」は高収益の企業もあるが、赤字企業も多い、という経営成果に大きなブレがあると言えます。一方、「家族主義」は赤字企業は少ないうえに、高収益企業もある、という結果になりました。まさか、こんなにはっきりと特徴が出てくるとは思いませんでした。これは何を表しているのでしょうか?
筆者は、社員と会社の関係が経営の成果を左右していると思います。

つまり、「家族主義」「やや家族主義」は社員と会社の関係は安定していることが予想されます。恐らく簡単に社員を切ったりはしない会社でしょう。反対に、実力主義の会社では社員と会社の関係はドライです。成果が上がらなかったら、配置転換や部署替えなどが起こっているのかもしれません。それを社員が発憤材料と捉えてくれたら会社は活力が出てきますが、逆に作用すると、社員の腰が落ち着かず、結果は思うように経営の成果が上がらない、ということになるでしょう。
また、ここで見逃しては行けない視点は、「家族主義」の会社に赤字と11%以上という企業がないことです。もともと「家族主義」という会社は少ないのですが、その中でも赤字と高収益の企業がないということは、大きなブレはないけれど、高収益企業もない、ということですから、「家族主義」もそこそこのほうがよい、ということでしょう。
【表5-8-2】家族主義・実力主義の違いと、過去10年の経常利益の関係(ヨコ比率)
26-1

【図5-14-2】家族主義・実力主義の違いと、過去10年の経常利益の関係(ヨコ比率)
26-2

上記では赤字から10%以下までの4項目で、実力主義のほうが数が多い。得に、2%以下のところで家族主義と実力主義の数値差は大きい。11%以上のところでは家族主義と実力主義とが同じ数値になっている。この表では、実力主義のほうは利益率が悪く、家族主義のほうがよい。もっともよいのは「やや家族主義」のところの数値が安定している。赤字企業は、やや実力主義がトップで、2位はどちらともいえない、である。

11%以上の企業は、やや家族主義がトップで、どちらとも言えないとやや実力主義が2位
「家族主義」と「やや家族主義」の赤字と2%以下の合計は31.4%
「実力主義」と「やや実力主義」の赤字と2%以下の合計は101.9%となる。
「家族主義」と「やや家族主義」の10%以下と11%以上の合計は58.9%
「実力主義」と「やや実力主義」の10%以下と11%以上の合計は77.5%となる。

ここからわかるのは以下のことである。

  1. 「家族主義」の会社は、赤字を出す比率が低い
  2. 「実力主義」の会社は、赤字を出す比率が高い
  3. 「家族主義」の会社の利益率は高くない
  4. 「実力主義」の会社の利益率は家族主義よりも高い
  5. 「実力主義」の会社は、利益率が高いか、低いかもしくは赤字かというように極端に分かれる傾向がある
  6. 「家族主義」の会社は、利益率が低くもなく、高くもなく、中庸にくる
  7. 「やや家族主義」の会社が最も高い利益率を確保している
  8. 「2%以下」の利益率の企業が最も多い
  9. 「5%以下」の利益率の企業が80.7%を占める。長寿企業の利益率は高くない
  10. 「10%以下」以上の利益を最も多く獲得しているのは「やや家族主義」で、25%の企業が5.1%以上を確保している
  11. 「やや家族主義」と「家族主義」の5.1%以上の利益率は41.7%
  12. 「やや実力主義」と「実力主義」の5.1%以上の利益率は26.3%
  13. 「家族主義」のほうが利益率はよい。
  14. 「やや家族主義」と「家族主義」の2%以下の利益率は98.9%(200%のうち)
  15. 「やや実力主義」と「実力主義」の5.1%以上の利益率は88%
  16. 「家族主義」のほうが利益率は高い。しかし赤字企業はない。
  17. 「どちらともいえない」と「やや家族主義」を比較しても、「やや家族主義」のほうが利益率がよいのがわかる。
ここから言えるのは、「実力主義」「やや実力主義」より、「家族主義」「やや家族主義」の傾向のほうが利益率は高く、経営の安定性がある。また、「どちらとも言えない」よりも、「やや家族主義」のほうが利益率が高いので、中庸よりも、「やや家族主義」とするほうが、利益率が高いことがわかった。これは本調査で得た気づきの一つであると考えられる。一般的には、実力主義のほうが利益率は高いと考えられてきたことを覆すこととなった。