経営年数100年以上の企業の経営スタイルと経営哲学を研究しています。調査・研究成果を発表してゆきます。

2012年08月

第75回:100年超企業10社の言説から特徴を捉える

2.過去の経営危機は、いつ、どのようなものだったか

長寿企業の経営者に行った最初の質問は、「過去の経営危機は、いつ、どのようなものだったか」というものです。それに対して、10名の経営者から下記のような答えが寄せられました。

1)太平洋戦争中のことで、2/5代目の経営者の頃、その経営者は辞書を作るくらいの本の虫のような人。病弱だったので、従軍はせず1/5代目から引き継いだ会社を経営していた。しかし、経営者には向いていなかったので、会社が傾いていった。
※2/5代目は5代続いている企業の2代目という意味です

2)真面目でおとなしく、学校の先生タイプで、寒いのも暑いのも平気な人であった4/5代目の経営者が、ある新興宗教のカルト集団に入ったことから、会社がおかしくなっていった。

3)日米繊維交渉が進むにつれて日本の生糸の需要は減少していった。国内需要も生糸から化学繊維に徐々に置き変わっていき、市場が縮小した。

4)08年のリーマンショックにより、同年10月から受注が激減した。前年対比で30~40%の受注となった。縦揺れの地震に襲われたようだった。

5)大正デモクラシーの影響を受けた大正10年の借地法と借家法の改正により、貸し主の立場が大幅に悪化した。

6)1947年の農地解放により、所有していた土地が半分になった。

7)1991~94年の頃、当時の代表者が仕手株に手を出し、数百億円を動かしていた。それに対して同族者から異論が上がり、内輪もめを起こした。それを見た検察庁が代表者の「背任、横領」の疑義で取り調べることとなり、裁判所から検査役が選任されて、洗いざらい調べられた。雑誌等にも大きく採り上げられ、企業のイメージダウンなど甚だしかった。

8)関東大震災のとき、従業員全員で消火作業にあたったが、火が迫ってきて、東京にあった本社、工場はすべて消失した。

9)1945年3月10日の東京大空襲で本社、工場等すべて焼け落ちた。工場に寝泊まりしていた従業員達も皇居まで逃がした。

10)男性用整髪料が爆発的に売れて、大手化粧品会社に肉迫する勢いであったが、米国から輸入された液体整髪料「バイタリス」が発売されると、とたんにその整髪料が売れなくなって、在庫の山となった。

11)毛染めクリームを開封後、半年間放置して使用すると、染まらないことがわかり、市場の評判を落とした。

12)特許権が切れた後、当社製品の問題点を克服した製品を他社が出し、市場を奪い去った。当社製品は急激な販売ストップがかかり、完全に市場から締め出されてしまった。

13)2009年、地域を台風が襲い、当社が建設を請けおった温室ハウスが約4,000棟潰れてしまった。しばらく農家からの仕事が無くなるのではとたいへんなピンチだと思った。

14)当社の信用を落とし、経営の根幹を揺るがすような事件が起こった。外部からの圧力による嫌がらせであった。

15)関東大震災のときに、日本橋に本社と工場があったが、すべて消失した。

16)昭和30年代と40年代に1回ずつ、会社が信用不安を起こした。仕入れ先からは、先金を出さないと資材を納品しない、と言われて困った。

長寿企業でも、過去にはこのように何度も経営の危機に見舞われてきました。その中には不可避のものと、可避的なものがあります。戦争は人災ではありますが、かといって一般人にはその時、その場所にいただけで無差別に巻き込まれていくので、これも不可避なものです。そういう観点から見ると、他にも法律の改正や日米繊維交渉、リーマンショックのような経済変動があり、半分がそのような不可避的なものでありました。
さすがに長寿企業ですから、若い会社なら起こりがちな社員の反乱や社員の同時大量退職、不正会計や粉飾のような「事件」は聞かれませんでした。そのようなことは過去に経験をしてきており、今日に活かされているようです。

可避的な経営危機については、ほとんどが経営者に関係することでした。経営者が賢明であれば防げたものは16項目中の7項目で、経営者の不明による経営危機というのも発生していることがわかりました。長寿企業は取締役の内訳も、持ち株比率も同族で支配しているので当然ですが、経営判断の多くを経営者がおこなうので、経営者に良い人材が得られなかったら、会社を危機にさらす、ということを意味します。
特に戦前、戦中、戦後すぐのころまでの中小企業では組織力よりも経営者個人の人的能力が経営の質を決めていました。時代の荒波を越えるのに、経営者にその能力が備わっていなければ、容易に潰えてしまう厳しい時代を長寿企業は乗り越えてきました。

長寿企業では途中経過はいろいろあったとしても、少なくても3代。多ければ10数代の継承を重ねてきています。創業者は会社を始めて次の時代に経営を渡せたのでよいとして、その後の経営者に人材を得られるかどうかが、経営の浮沈を決めます。途中に1人でもおかしな経営者が現れたら、それで企業は途絶えてしまう。バトンをもって全力で走り続け、さまざまな時代の波を乗り越え、次の走者に無事にバトンを渡すのは至難なことです。しかしこれをなん十年も、何代も続けてきたのが長寿企業であり、「企業は人なり」と「継続は力なり」を体現している所以です。

第74回:100年超企業の経営者10人の言説から特徴を捉える

1.長寿企業経営者の構造化インタビューの目的と内容

「企業は生き物である」
これは筆者が28年の経営の中で体験し、身にしみて感じてきたことです。それは企業自身が一つの意志をもって判断し、動いてゆくことを意味しています。たとえ創業者がトップにいても、思うようにならないことが多くあります。弊社はまだ70名ほどの会社ですが、規模が大きくなればなるほど、そう感じるに違いありません。
経営者にとって、会社は自分が動かしたいように動かすものではなく、顧客、社員、そして社会の求めに応じて動かすものです。企業は自らが生き残るために、それら3者の意向が入り交じった中で判断する生き物であり、そのことを経営者が認める必要があるのでしょう。企業が自らの意志をもつようになった時、初めて社会の公器と言われるのではないかと思います。
その中でも長寿企業は歴史のさまざまな苦境を何度も乗り越えて今日に至っている日本企業群のトップランナー達です。規模のみを問うなら、ここに採り上げた企業よりも大きいところはあります。しかし、平均の経営年数144年という長きにわたって存続している間に、彼らよりも若い企業を生み出す母体となった企業もたくさんあるに違いありません。
ここからは、経営者が答えていただいたアンケートを深く読み解き、その上で定性面のヒアリングをすることで、より深い内容にたどり着こうと考えています。時間が有れば、もっと多くの経営者の取材をしたかったのですが、今回は合計で21名、長寿企業の経営者はその中で10名になりました。
特に定量調査ではヒト、モノ、カネという部分についてアンケートし、ついで定性分野である技術、情報、経営哲学について可能な限り聞き出そうとしました。対象としたのは、下記のような企業です。

1)取材対象企業の内訳(経営年数100年超企業)
  製糸業(現在は不織布と不動産業)
  文具・ホビー用品メーカー
  農業用資材販売会社
  カレンダー企画・製造会社
  雑誌発行・データ販売会社
  包装材料の製造・販売会社
  建設資材の販売会社
  不動産会社
  化粧品製造・販売会社
  石油元売り会社

2)取材対象企業の内訳(経営年数100年未満)
  化学製品の製造販売会社
  塗料メーカー
  印刷会社
  倉庫・運輸会社
  販売促進企画会社
  歯科医療系工具のメーカー
  天然瓦斯の掘削と精製会社
  都市ガスの販売会社
  業務用冷凍機メーカー
  食品流通のボラタリーチェーン本部
  半導体関係機器製造・販売会社
(これらの会社への取材は、仮説の設定、アンケートの質問項目の設定、そして100年を超える長寿企業への取材項目の設定、および長寿企業の回答内容の裏付けに活用しました)

3)取材対象者:代表取締役社長

4)時期:2010年3月~9月

5)取材場所:1社は銀座の貸し会議室を利用。1社は出版文化社内で取材。他はすべて相手先企業の本社を訪問しました。

6)記録:ICレコーダーにて録音。

7)取材の方法:アンケートをだして事前に回収し、内容を吟味して質問状を作成。事前に相手先に質問状を届けてから、後日にヒアリングをしました。

今まで経営者の取材は、大手から零細企業まで入れて、数百社に行ってきました。本田宗一郎、盛田昭夫、塚本幸一、立石一真、稲盛和夫の各氏など、大物経営者の場合は多くの資料があり、広報の態勢も整っているので準備万端で取材にいきますが、中小企業は資料がほとんどありません。よって、さまざまな経営の話を聞きながら、どこにその会社、または経営者の経営方法に特徴があるかを探ります。経営者取材の前半は経営年数100年未満企業の取材をし、その経営の特徴と問題点を探りながら、100年超企業に何を取材するかを考えました。
100年未満企業の取材をし、その経営の特徴と問題点を探りながら、100年超企業に何を取材するかを考えました。
100年未満企業には東証一部上場企業もあり、創業者が50年間、社長をしている企業もあって、あえて多様な取材先を選んだことにより、テーマの広さと深さを得ることができました。この章から先は、各経営者から聞いた話を分解し、分析し、佐藤郁哉の『フィールド・ワーク』と『質的データ分析法』を参考にして、取材内容の特徴点を引き出し、整理し、経営者の経営スタイルと経営哲学の特徴として落とし込めるものをまとめます。

*佐藤郁哉『フィールド・ワーク増訂版』2008,新曜社
*佐藤郁哉『質的データ分析法』2008,新曜社

第73回 アンケート調査から見える長寿企業の平均像

11.経営の継承について

後継者の人選について重要なことは「同族であること」が第1位でした。2位以下には統率力や人柄が入っているので、それらは実力による評価です。経営の継承が上手くできた理由としては「同族経営を続けてきたから」が上がっており39.9%です。つまり、会社としては実力主義を標榜していますが、経営陣は同族で固め、経営権もしっかりと把握するという意図が見えます。よって実力主義は社員の評価に適用しているもので、経営陣および同族者については同族主義を堅持しています。
続いて、先代から受け継ぐ要素として、経営の6つの要素「ヒト、モノ、カネ、技術、情報、経営哲学」に分けて、同族経営者と非同族経営者に重要度を聞いたところ、わずかな差ですが、経営哲学を除いては、ほとんど有意な差が出ていません。経営哲学の重要さには如実な違いが出ており、これは特筆に値します。
経営の後継者から見て、先代からの引継内容で「経営哲学」の重要度を探ったところ、明らかに同族と非同族の経営哲学に対する評価に違いがあります。非同族経営者は経営哲学は自らで構築し、自分の手で練り上げてゆくことを望んでいます。
同族による経営哲学の「重要」と「やや重要である」の合計は82.1%で、非同族は67.7%です。さらに同族の「重要でない」「あまり重要でない」の合計は4.6%で、非同族は7.7%でした。確かに同族・非同族の間に違いはありましたが、非同族であっても2/3以上の経営者が「やや重要」「重要」と答えている事実のほうが特筆されるべきでしょう。
長寿企業でなければ、非同族の経営者がここまで先代から受け継ぐ「経営哲学」を重要と考えないと思われます。長寿企業では非同族企業の経営者であっても、会社が受け継いできた経営哲学を2/3の経営者が支持しています。これは今回の調査が明らかにした重要な気づきです。

第72回 アンケート調査から見える長寿企業の平均像

10.営業と資産運用について

創業時からの明らかな転業率は26%でした。創業時の商品の残存率を見ると、33%は創業時の商品は扱っていません。転業したのは26%で、33%と26%の誤差は転業していませんが、創業時の商品は扱っていないということです。
創業時の商品の販売率が売上高の25%以下が110社で、これは全体の38%です。度数では206社が取り扱いが25%以下、もしくは0%の会社なので、母数の286社で割ると72%です。売上比率が25%を下回っていると主力商品ではない可能性が高いので、ビジネスモデルとしては創業時とは変化していると想定され、約3/4が事業替えをしたと考えられます。これはチャールズ・ダーウィンが唱えた『進化論』に言われる「強い者が生き残ったのではなく、変化した者が生き残った」という定義に合致しています。
一方、創業時の商品が、現在も売上高の50%以上を占めているのは28%で、よほど創業者達に先見力があったか、開発した商品が素晴らしいか。いまだに競合商品を抑えていると考えられます。こういう商品をもった長寿企業は幸せです。
次に、売上と品質のバランスについて、「やや品質重視」と「品質重視」の合計は50.5%と過半数です。これは「やや売上重視」「売上重視」の合計の3倍以上で、ここには長寿企業の特徴が見られます。たとえ売上を伸張できる時でも、品質を落としてまで売上を上げようとしない。これが長寿企業の特徴的な経営方法です。
ただ、約30%を占める「どちらでもない」企業は、明確に「品質重視」とは答えていないので、経営環境、状況によっては「売上重視」のほうに傾く可能性があります。そうすると、50.5対49.5になります。仮に、「どちらでもない」の半分が「品質重視」のほうに傾くと65.5%で約2/3になります。
長寿企業ならではの特徴が出ているのが資産運用です。資産運用をしていないのが66.8%で、2/3は財テクをしていません。残りの1/3は過去にしたことがあって大幅な利益を上げられた会社は4.1%に過ぎません。この中にはいるのは至難の業です。

第71回 アンケート調査から見える長寿企業の平均像

9.長期にわたる経営維持の秘訣

長期で経営を維持するには、二つの要素が必要と考えられます。ひとつは思わぬつまづきに気を付けること。そして長期に維持・発展するためのノウハウ、メソッドをもつことです。
長寿企業の歴史にはいろんな出来事がありました。平均の経営年数が144年で、明治維新前から存在しているので、政変、内乱、大地震に戦争と幾たびもの波乱に見舞われてきました。おそらくそこには、先祖累代に伝わる経営の注意点が受け継がれているに違いありません。そこで「経営を危うくする事柄」を聞いたところ、第1位が「販売先の業績悪化」でした。

長寿企業は長年、手形を受領し、自らも手形を切ってきました。販売先の業績悪化は手形をもらっていると、連鎖倒産が起こる可能性があります。長い経営経験の中では、不渡り手形を掴んだことが何回か有ったに違いありません。その時に持ちこたえられたから、今日につながっているのですが、経営体力を超える不渡り手形を掴んだら、その時点で会社は終わります。多くの企業がそのように退場を余儀なくされたのを見てきたので、「販売先の経営悪化」がダントツの1位に選ばれていることが、時代背景からもよくわかります。
この項目で、もう一つ注目するのは、その他の項目が選択の第2位に上がっていることです。アンケートで設定した選択肢が足らなかったことが考えられます。その他の項目に記述されているので、その内容を見てみます。<多数順>

・市場変化への対応の遅れ
・過剰な設備投資
・労働争議
・為替の急変
・多角化の失敗
・社員のモチベーションの低下

これら第2位・その他の内容に続いて、「競合会社の台頭」「販売先の値引き要請」が上がっています。長寿企業は四方八方に目を配りながら、安全第一の経営を心がけている様子がよくわかります。
次に、長期にわたって維持・発展してきた要因を見ます。ここでも一番に上がっているのは取引先との関係です。これは先ほどの「経営を危うくする事柄」の裏返しです。経営を危うくするのも取引先なら、長期に経営を維持・発展してこれたのも取引先との関係です。320社の回答社のうち75社(23%)が「取引先との関係」を上げており、圧倒多数ではありませんが、第2位は49社(15%)なので、「取引先との関係」は維持・発展の要因の中では群を抜いています。
長寿企業が考えている経営の要注意先は取引先で、経営を維持・発展できるのも取引先との関係です。良い取引先をもって、できるだけ長く、注意しながらビジネスを続けていくのが、長寿の秘訣と言えそうです。
著者プロフィール
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ