経営年数100年以上の企業の経営スタイルと経営哲学を研究しています。調査・研究成果を発表してゆきます。

2012年07月

第70回 アンケート調査から見える長寿企業の平均像

8.成功事例と失敗事例の共有化

今回の調査で導き出された長寿企業の経営で特筆できるのは、成功事例と失敗事例の共有化についてでした。成功事例について「やや共有してきた」と「共有してきた」をたすと実に65.4%、2/3が共有することを意識してきました。逆に、「あまり共有してこなかった」「共有してこなかった」をたしても8%にしかならず、共有してきた会社はその8倍以上になります。
次に失敗事例ですが、「やや共有してきた」と「共有してきた」をたすと60.2%となり、過半数で共有化してきたことがわかります。
長寿企業では歴代経営者の79.6%は同族であり、取締役の過半数が同族者であり、株式の76.1%を同族で保有しています。経営の全権をもっているということは成功例も失敗例も、ともに同族者達が行っている可能性があります。よって、成功例は共有しやすいが、失敗例は葬り去られるのが通例と考えていました。そこはさすがに長寿企業です。60.2%もの高率で失敗例も共有化していました。その具体的な方法まで今回は調べませんでしたが、この成功例、失敗例の共有化は今回の調査対象となった長寿企業の重要な経営メソッドのひとつと考えられます。

第69回 アンケート調査から見える長寿企業の平均像

7.家族主義と実力主義の違い

経常利益率が「赤字」と「2%以下」を利益率の低い会社と位置づけ、経常利益率を「家族主義」から「実力主義」の5段階で比較すると、「実力主義」の会社の利益率が悪いという調査結果が出ています。一方、「10%以下」と「11%以上」という利益率の高い項目を見ると、ここでも実力主義の会社の比率が高い。これらにより、実力主義の会社は経常利益率が高くなるか、低くなるか、経営成果が両極に振れることがわかります。
これは社員と会社の関係に起因しています。家族主義の会社では社員と会社の関係が安定しており、逆に、実力主義の会社では不安定で、社員の離職率や流動性が高いと考えられます。
一方、経営成果を「家族主義・やや家族主義」と「どちらとも言えない」と「実力主義・やや実力主義」の3つに分けて比較したところ、経常利益率を「10%以下」「11%以上」のところでは「どちらとも言えない」の経営成果が3番目になります。「どちらとも言えない」は社員と会社の関係が家族主義とも実力主義ともどちらとも言えない中途半端な状況にあり、そもそもそのような概念で社員と会社の関係について考えていないと思われます。よって、施策が時には家族主義的であったり、時には実力主義的であったりしているのではないでしょうか。このような状況で高い利益率を生みだしていくのは有効でないことがわかります。
経常利益率の安定的な比率を「3%以上」としてみると、ここでも「やや家族主義」がもっとも安定しています。逆に、「家族主義」と「実力主義」の項目の利益が安定していません。ここにも社員と会社の関係が経営成果として如実に反映されています。両極の「家族主義」や「実力主義」と明確に打ち出している会社では、社員がついていくのはたいへん。社員には「実力主義」も「家族主義」も「やや」がついているほうがいい。明確な実力主義も家族主義も社員には居心地がよくないのでしょう。
各主義ごとに過去10年の経常利益率がわかる表で、「家族主義とやや家族主義」の項目と、「実力主義とやや実力主義」を見ると、明らかに「やや家族主義」のほうが「10%以下」と「11%以上」の数値が高い。つまり利益率が高い。それは「家族主義」と「実力主義」の2項目を比較してもわかります。
さらに経常利益率が「3%以上5%以下」でも「やや家族主義」が最も経営が安定しています。逆に「家族主義」の項目が落ち込んでおり、前述のように「家族主義」もほどほどに、ということです。明確な「家族主義」は社員を窮屈にし、また成果の上がらない社員を入れ替えることがしにくいため、社員に緊張感がたらず、社員と会社がなれ合いになる恐れがあります。これで経営成果を上げてゆくのは厳しいことが読みとれます。
同業他社と比べる過去の収益状況を見ると、各主義によって経営成果に大きな違いが出ています。「やや家族主義」がもっとも安定しており、次に「どちらとも言えない」です。「やや実力主義」と「家族主義」は他社に比べて経営成果が低く、特に「実力主義」の項目は、極端に低くなっています。
このように、「家族主義」と「実力主義」は、社員と会社の関係を定義づけており、それらは経営の成果に色濃く反映されています。

第68回:アンケート調査から見える長寿企業の平均像

6.会社と社員の関係について

長寿企業は、教育・研修では会社理念の浸透や社員のモチベーションの向上に注力しています。次に、技術・情報にあたる業務知識そのものを説いています。ここから読みとれるのは、長年の経営経験から、社員に会社や経営者の考え方をしっかり伝えることと、社員をモチベートするための研修が、いかに大事であるかを会社と経営者が理解していることです。会社と社員が相互に響き合い、社員に日々の仕事にやる気をもって取り組んでもらうことで、どれほどに経営の成果が変わってくるかが、長寿企業はわかっています。人の使い方、活かし方を熟知している長寿企業ならではの研修内容です。
長寿企業が行っている会社の行事を調べると、社員旅行を挟んで第1位に経営方針発表会、第3位に事業部別の実績発表会を入れており、より実務的な会合に時間を割こうとする傾向が見られます。創立記念行事は25.3%で、1/4の企業しかおこなっていません。長寿企業にあっては意外な結果でした。長寿企業であるのを強調することなく、会社の業績向上に視線が向かっていることがうかがえます。
今回の調査では、経営歴100年未満の企業10社にも調査をしました。100年未満の企業で、研修については社員に成果を上げてもらうことを急いでいるようです。成果に直接的に結びつきやすい「業務知識そのもの」や「商品・製品の知識」「目標設定」や「年度の経営方針」の研修に注力しています。一方、経営理念や考え方を理解させるには、十分な社風や教育・研修方法が定着していないので時間がかかり、成果が表れにくい。長寿企業では長年、経営理念やモチベーション向上などの教育・研修を繰り返しているので、それらが社風として定着しており、社員も吸収しやすい制度や環境整備ができていると考えられます。100年未満の企業でも、是非真似たいところです。

第67回:アンケート調査から見える長寿企業の平均像

5.経営へのこだわりについて

長寿企業の経営のこだわりは、PLでは利益へのこだわりが68%で、売上へのこだわり18%の3.8倍です。BSでは自己資本比率が54%で、2位が流動資産の18%なので、圧倒的な過半数をあげています。成長することよりも、企業が安定的に維持されることのほうに、重点を置いています。
経営全般(19項目)の中で重視する分野を調べた結果を、ヒト、モノ、カネ、技術、情報、哲学の6分野に分けたところ、1位:技術、2位:ヒト、3位:カネ、4位:経営哲学、5位:モノ、6位:情報という順位になりました。他の項目で聞いた「経営上で重視する分野」でも技術が1位になっており、技術が2位になった質問項目「後継者として先代から受け継ぐのに重要なこと」ともあいまって、技術の重要度の高さがわかります。
かつてはヒト、モノ、カネと言われてきた経営の3大要素に変化が起こっている可能性があります。ビジネスの国際化とデフレで、業界内での優勝劣敗と下克上が激しくなったために、人間関係や取引実績だけで他社に勝てる時代ではなくなったこと。また、インターネット等の効用で、情報の社会的な共有化と民主化が進み、商品の需要者と供給者の間で、知識や能力の格差が少なくなったことで、需要者の要求レベルが上がり、それに応えられる供給者と応えられない供給者ができてきています。パナソニック、シャープ、ソニー、そしてサムソンなどのテレビ製造業界を見るとよくわかります。但し、技術と言っても、単に物作りの技術だけでなく、経営のメソッドや資本投資の技術も範疇にはいると考えねばなりません。
このような大競争の時代になり、自社を他社と差別化する技術が求められることを反映して、技術が上位に来ていると考えられます。
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