経営年数100年以上の企業の経営スタイルと経営哲学を研究しています。調査・研究成果を発表してゆきます。

2012年06月

第66回:アンケート調査から見える長寿企業の平均像  

4.長寿企業に労働組合はどのような経営成果をもたらしているか

労働組合がある企業の同族性で特徴的なのは、労働組合が有る会社の株式同族比率(全株式に対する経営者の同族者・社がもつ株式の比率)が50%以下の会社が最も多いということです。対照的に労働組合があり、株式同族比率が51%を超えている会社が最も少ないことです。今回の調査対象企業はすべて非上場会社ですが、労働組合を有する企業は、株式保有比率ではもはや同族支配から抜け出している会社が多くあります。ただし、同族の支配の有無は別問題です。
労働組合が有る会社は無い会社よりも、若干、利益に対するこだわりが強い。また有する会社は自己資本比率により強い関心があり、無い会社は流動資産と流動負債について関心が高い。労働組合が無い会社は、会社の現金および現金化できる資産がいくらあるのか、逆に、どれほどの借金があるのか、という資本の流動性を重視しており、会社の安全性への関心は、若干、労働組合を有する会社を下回わります。
労働組合の有無と過去10年の利益率を見ると、有する会社は経常利益率が3%以上の会社が65%を占めていますが、無い会社は55.7%で約10%の差があります。経営は組合を有する会社のほうが安定していますが、一方、赤字企業の率は7.2%と無い会社の18倍です。また、11%以上の利益を上げている会社は、組合が無い会社は有する会社の4.8倍です。
ここからわかるのは、労働組合を有する会社の経営は経常利益率が3%~10%の範囲内で安定していますが、高い利益率を会社に許す風土はなく、逆に赤字が出ても止められない傾向があります。無い会社は2%以下の低率な経常利益率の会社が多くありますが、高利益をたたき出す会社もあり、赤字を出す会社はまれということです。

第65回:アンケート調査から見える長寿企業の平均像

3.社員持株会が有る長寿企業の経営成果

1) 社員持株会を有する会社は無い会社の1.39倍の社員数を保有しており、有する会社と無い会社の社員数には有意な差があった。結果として、有する会社は無い会社より経営の成果が大きい、と言える。

2) 「実力主義とやや実力主義」を選んだ会社は標本全体の45%に達し、特徴的なのは社員持株会をもつ会社は、その中の32%と少数派であることだ。実力主義を標榜するゆえに、家族主義を具体化する社員持株会のような組織は不要と考えられている。

3) 「家族主義・やや家族主義」の会社は全体の19.5%になるが、その中で社員持株会があるのは46%となる。このように社員持株会の有無には、その会社の考え方が如実に現れている。

4) 社員持株会の経営成果であるが、有する会社は過去10年の経常利益率が高い会社が多く、低い会社は少ない。一方、無い会社は利益率が高いか、低いかの極端に振れる傾向が強い。ここには社員持株会をつくる会社の社風が反映し、有する会社は社員と会社の関係が安定していることが読みとれ、無い会社は安定していないと言える。つまり無い会社は実力主義を標榜しているので、成績の良くない社員は変えてゆくこととなる。逆に有する会社には家族主義がとられている例が、無い会社よりも多く、社員を月々の成果だけでは見ていない。
そこで社員と会社のギスギスした関係とスムーズな関係による社員の離職率や定着率などに違いが出てくると考えられる。この傾向は「過去10年の経常利益率」だけでなく、「同業他社と比べた過去の収益状況」を見ても、同じ傾向が見られた。よって社員持株会を有する会社と無い会社の経営成果には明らかな違いが見られる。さらにこれらの数値から、社員持株会の有無と、業界他社との収益性を比較すると、若干ではあるが、社員持株会がある会社は収益性が高い。この結果からわかる事は近年の経営数字に対して、社員持株会があるかどうかは影響がある。しかし、長い経営年数のなかにおいては、その有無が作用してきたとはいえない、ということである。
これは社員持株会がいつのころにできたか、という事とも関連してくる。社員持株会は1960年代後半に日本がOECDに加盟したことにより、資本の自由化が進み、外国資本からの企業買収を避けるために、株主安定化策の一環として取り入れられ、株式上場企業を中心に広まってきた制度である。*
よって、非上場会社に広がってきたのは、その後年であり、ここに採り上げている長寿企業が導入したのも、それほど古いことではないと考えられる。社員持株会が会社の長年の
経営成果に与える影響が見られないのは、そのような事情があると思われる。社員持株会そのものは、ここに採り上げた長寿企業全体の35%程度しか導入されていないので、長寿企業の特徴的な経営手法のひとつとは言えない。

*道野真弘(1997)「従業員社員持株会の問題点」『立命館法学』1,2010年11月20日検索,
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/97-6/michino.htm

第64回:アンケート調査から見える長寿企業の平均像 

2,長寿企業の経営内容

1) 経営者は経営方針の策定に力を入れており、経営方針発表会を年に1~2度おこなっている。

2) 日々の経営で注目しているのはヒト、次に技術(ノウハウ)。

3) 社員教育では業務知識の向上ではなく、理念教育を重視している。年1回、社員旅行もおこなっている。

4) 会社の成功事例は2/3の会社が共有化しており、失敗事例も60%が共有している。5)過去に経営が厳しくなったときは顧客ターゲットを変え、それでもダメだったら商品そのものを変えた。それでも厳しくなったときは銀行の借入で何とかしのいだ。

6) 経営で気を付けているのは販売先の業績と競合会社の台頭。取引先との良好な関係が一番大事で、次に商品力。短期的な好不況に左右されない商品をもっているのが理想と考えている。

7) 創業時の商品は30%の会社で現在は取り扱いがゼロ、35%の会社が25%以下の取扱量である。かなり商売替えが起こっているということだ。

8) 売上が好調なとき、品質を多少犠牲にしてでも売上を重視するのは17%。過半数の会社は品質重視で売上を追わない。それよりも常に顧客の新規開拓に注力して、売上の向上を目指している。

9) 基本的に財テクはしない。本業で勝負しているが、昔、少しやってみた会社は75%が儲からなかったという。触らぬ神にたたりなしだ。

10) 創業以来、経営年数の80%では黒字が出ており、ここ10年の経常利益率が赤字になった会社はわずか2%である。5社に1社は5.1%以上の経常利益を上げており、3社に1社は同業他社よりも収益性が高いと考え、同程度と考えている会社と合計すると80%を占める。長寿企業の経営はかなりなのである。

11) 株式については73%の会社が今後も未公開とし、4%はできれば公開したいと考えている。なぜ公開しないのかと聞くと、「そのほうが経営しやすいから」、次に「外部の資金は必要ないから」という。内部留保が厚いということだ。

12) 経営の継承については、現代表は4代目、5代目、3代目の順に多い。代々の経営者は80%が同族出身者。

13) 今後の継承者については70%が同族であることよりも実力重視としているが、いままでの継承が上手くできた理由は、「同族であったから」と答えている。理想とは違って、結局、同族で継承するという可能性が高いことがわかる。

14) 継承する人には、社員との良好な関係を築くこと。次に、利益確保を重視していること。経営の継承は第一に、勤めている社員の雇用を継承・維持することであり、そのために利益を確保することを念頭に置いている。

15) 後継者に引き継ぐ最重要なのはヒト、次いで技術と考えている。

第63回:アンケート調査から見える長寿企業の平均像 

この調査が終了した2011年1月ごろ、そのことを聞かれたSMBCコンサルティングから原稿依頼が来て、『成果を生み出す社史の作り方――成功長寿企業になるため、会社の歴史からいかに学ぶか』を新書版120頁ほどにまとめました。

先日、その冊子を読まれた東京と福岡に本社のある社員千名ほどの会社から、その冊子を読んで追加で10冊を購入していただき、幹部の勉強会に使われたとのこと。出版以来、そのようなお話が次々と届いて喜んでおります。企業幹部の中にも会社の歴史に学ぶ必要性を感じている方がたくさんおられるということです。皆さんへしっかりお知らせをしてゆく責任を、改めて感じた次第です。
第60回・5月24日までで長寿企業の定量面の調査分析をお知らせしたが、これのとりまとめをせずに、定性面の分析に移行しようとしたことについて、読者からのコメントが来ました。週に1回で、しかも長期にわたっているので、一度、定量面の分析結果を整理してほしいというご要望でした。すみません、気が付きませんで。この後、数回でまとめさせていただくこととします。

1,長寿企業の概要

1)創業から144年、平均して慶応2年に創業した長寿企業群である。黒船が来航、徳川政権の支配力が目に見えて衰え、幕藩体制を崩しかねない薩長同盟が結ばれた年である。勘の鋭い創業者はおそらく時代の新しい息吹きを感じながら次の時代を生き抜くために、今後の仕事をどうするかを考えたに違いない。職人も商人も、武士もいただろう。

2)そのうちの38%が流通業(小売り、卸し)を選択し、創業時のビジネスから4社に1社は転業して今日に至っている。現在、流通業は40%となっており、他業種から転業してきた会社があることがわかる。

3)現在、社員数は連結子会社も含めると平均で229人、売上高は13,875百万円。3社に1社は社員持株会が有り、社員持株会の有る会社のほうが、無い会社よりも収益性は高い。(非上場企業の売上高上位から1,500社を選んでアンケートを行ったので、平均の長寿企業よりもかなり企業規模が大きい結果が出ています)

4)社風としてはやや実力主義を標榜している会社が多いが、収益性が良いのはやや家族主義である。全くの家族主義は少なく、全くの実力主義も多くはない。

5)社是は80%の会社にあり、破ったことがない会社はそのうちの86%であった。ということは、328社のうち225社(69%)は社是を堅実に守っている。ただし、流通業と非製造業では71%には社是があるが、製造業系の会社に比べると社是の所有率は低い。

6)取締役の過半数は同族で、同族の株式所有比率は76%であった。

7)4社に1社は労働組合があり、社員数では労働組合がある会社は無い会社の約4倍になっている。ただし、労働組合のある会社は企業規模は大きいが、無い会社に比べて経常利益率が落ちる。

8)PLでは経常利益にこだわり、BSでは自己資本比率にこだわる。経営全般でこだわっているのは総資産経常利益率(ROE)である。

以下は次回へ続く――
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