経営年数100年以上の企業の経営スタイルと経営哲学を研究しています。調査・研究成果を発表してゆきます。

2012年05月

第62回:長寿企業を取り巻く環境

長寿企業の定性面の分析を進める前に、いま、長寿企業が置かれている環境について整理しておきたい。それは驚きに値するものであるとともに、144年という今回の調査対象企業の平均年数がいかにすごく、価値あることかがわかるからである。

帝国データバンク(TDB)と東京商工リサーチ(TSR)はともに何度か、長寿(老舗)企業の倒産動向調査を発表している。入手可能なデータにTDBの2001年の発表の分があり、1990年からの全体に占める長寿企業の倒産比率がある。TDBもTSRも30年以上の企業を長寿としており、1990年では長寿企業の倒産は全体の7.2%であったが、2001年には24%まで上がっている。さらに2005年まで調べた続報では30.2%となり、過去最高を更新している。
それにTSRの資料をつなげると、2011年では業歴30年以上の倒産構成比率は31.1%となり、年々、比率が上がっていることがわかる。

TDBによると30年以上の中でも60年を超える企業、つまり30年の倍を超える業歴の企業倒産が増えているという。統計を取り始めたのが1987年からで、当時、全倒産件数に占める60年以上の業歴の倒産社数比率は0.4%、1,000社に4社だった。それが2004年には1.1%と約3倍になった。
このように長寿企業は、近年、非常に厳しい経営環境におかれている。その要因は、読者諸氏にも心当たりのある方が多いだろう。
新設企業よりも以前から資産をもっていただけに、バブル崩壊による資産価値の下落の影響が大きい。これは長年、多くの長寿企業が背負ってきた負債で、どこかで膿を出しきる英断が為されなかったら抱え続ける。本業が厳しくなった時、これが最後の引き金を引くことになる。世界最古の企業といわれてきた大阪の金剛組の2009年の倒産は後者が要因になったと言われている。
続いて、長寿企業を悩ますのは、規制緩和やIT化などによる産業構造の変化である。規制で守られてきて、ぬくぬくとしてきた業界、会社ほど規制緩和にもろい。とくに、産業構造の変化は2004年当時よりも、近年のほうがドラスティックに進んでいるので、その後も長寿企業の倒産率は高まっている。

調査した長寿企業の経営年数144年は明治維新の前だ。幾多の荒波は日本と日本人を翻弄してきたが、その中でも営々と生き延びてきた長寿企業の生命力は驚異的なのだ。

第61回:100年超企業10社の言説から特徴を捉える

1.長寿企業経営者への構造化調査

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「企業は生き物である」
これは筆者が27年の経営の中で身にしみて体験し、感じてきたことです。企業はそれ自身が一つの意志をもって動き、方向を判断してゆくということです。
創業者がトップにいても、思うようにならないことは多くあります。それは規模が大きくなればなるほど、そういうことを感じるに違いありません。経営者にとって、会社は自分が動かしたいように動かすものではなく、社会の求めに応じて動かすものです。企業が自らの意志をもつようになった時、初めて社会的な存在の公器と言われるようになるのでしょう。
中でも長寿企業は歴史のさまざまな苦境を何度も乗り越えて今日に至っている日本企業群のトップランナー達です。規模のみを問うならば、ここに採り上げた企業よりも大きいところはいくらもあります。しかし、平均の経営年数144年という長きにわたって企業として存続してきている間に、若い企業を生み出す母体となった企業もたくさんあります。ある化粧品メーカーの経営者は言われました。「資生堂さんの創業者は、元当社の従業員でした」。このような話は、長寿企業を丹念に取材していけば、いくらでもあるエピソードです。

これまでの記事では長寿企業を定量面(数値化できる側面)から切り込み、分析しましたが、それだけでは企業の実態は捉えられません。アンケートをよく読み解き、その上で定性面(質をとらえる側面)のヒアリングをすることで、より深い内容にたどり着けます。
この取材を始めるまで、今まで数多くの取材をしてきましたが、定量要素の情報をあらかじめもらった上でインタビューをするという方法はとってきませんでした。ジャーナルの世界では取材の現場でえられる資料と情報が大事で、多くの場合は一発勝負で定性と定量要素を掴もうとします。
今回の調査では定量のヒト、モノ、カネについてアンケートし、ついで定性の技術、情報、経営哲学について取材で聞き出そうと考えました。
うまくいった取材先があれば、いかなかった取材先もありました。筆者自身に出版編集者のスタンスが抜けず、その場での興味・関心に引きずられてしまうことがしばしばありました。出版の分野ではそういう臨機応変さは必要ですが、研究者がそういうブレを現場で生じてしまうのは、失格といわれても抗弁できません。
そのことを思い知ったので、構造化調査というのを導入しました。アンケートとインタビューと、そのアウトプットの内容と方法をあらかじめ規定し、取材でとったコンテンツを定量的に評価する方法を講じました。これを構造化調査として、商標登録をし、商品化しました。

第60回:過去10年の経常利益の平均、および同族、非同族と、先代から受け継ぐ要素:経営哲学

長寿企業の経常利益の現状と、先代経営者から引き継ぐ要素として「経営哲学」を大事に考えている経営者の回答を掛け合わせたものです。ここからは経営の利益率と「経営哲学」への関心の強さに、関係があるかどうかがわかります。

60図表

この表で明らかなのは「2%以下」以上のところで、2位との圧倒的な差を付けていることです。1位でこれだけ2位と差を付けたのは「ヒト」に次ぐ数字です。つまり、赤字でない企業においては、「ヒト」が1位で「経営哲学」を2番目に重要視してきた、ということがわかります。
赤字のグループで1位と2位の差がほとんど無いのは経営哲学を軽視しているからかもしれません。逆に重視する事で、浮上するかもしれないチャンスがある事を示しています。

60グラフ

同族と非同族でわけた表ですが、ここに大きな違いが出現しました。同族の「やや重要である」と「重要である」の合計は82%ですが、非同族のそれは68%です。非同族の人たちは経営哲学は同族のものであると考えているか、非同族として経営をしてゆくのに先代からの「経営哲学」には若干の抵抗感があるのか。非同族の経営者が自分の経営哲学を浸透させるには時間がかかりすぎるので、「経営哲学」以外のものを重視しているということでしょう。「重要」を選んだ%では、55%と40%の差が出ています。これにも有意な差が出ていると言えるでしょう。

第59回:過去10年の経常利益の平均、および同族、非同族と、先代から受け継ぐ要素:情報

長寿企業の経常利益の現状と、先代経営者から引き継ぐ要素として「情報」を大事に考えている経営者の回答を掛け合わせたものです。ここからは経営の利益率と情報への関心の強さに関係があるかどうかがわかります。

59図表

「情報」は外からもたらされる情報だけでなく、社内で生み出して交換される情報、つまり意志決定の経路や会議体のあり方も、情報の仕組みとして考えています。もちろんIT系の情報システムも含まれます。
「カネ」「技術」と比較すると、一目瞭然の違いです。赤字会社以外のグループで「重要」は2位となっています。特に、11%以上のグループで「重要」は、「どちらとも言えない」と同数の2位ですから、「情報」に対する評価は低いと言えます。
数量は別にして、順位だけを捉えると、11%以上の企業では評価が低く、赤字の企業では評価が高い、という結果です。これには何か意味がありそうです。高収益の会社は情報に頼った経営はしていない、ということであり、赤字の企業はいつもたらされるとも限らない情報に頼った経営をしているので、安定しないということでしょう。

59グラフ

同族の「やや重要である」と非同族の数を%に置き換えると、各々48%と43%です。「どちらとも言えない」以下の数字を%に置き換えると、合計で同族が27%、非同族が25%です。いずれも、非同族の人たちの評価が低いと言えます。情報については、先代からいただいても、あまり役に立たない、という認識は同族も非同族も同じですが、若干、非同族のほうが厳しい目に見ているようです。

第58回:過去10年の経常利益の平均、および同族、非同族と、先代から受け継ぐ要素:技術

長寿企業の経常利益の現状と、先代経営者から引き継ぐ要素として「技術」を大事に考えている経営者の回答を掛け合わせたものです。ここからは経営の利益率と技術への関心の強さに関係があるかどうかがわかります。

58図表

全体的に、技術の評価が高い事がわかります。ポイントは「カネ」の時に、11%以上のグループは「カネ」を重要と選んだのは第2位でしたが、この技術では重要を選んだのが第1位になっていることです。2%以下のグループではわずかな差で2位になりましたが、ほかのグループは「カネ」と比べると、1位と2位の差が開いています。今回のアンケートで技術に対する評価が高いのは一貫していますが、それは利益率との関連はありませんでした。

58グラフ

技術については、「やや重要である」と「重要である」の合計の割合が非同族で84%、同族で78%です。若干、非同族のほうが重要に思っているようですが、特質を表すほどの差ではありませんでした。
同族も非同族も同じぐらいに技術は大事だと思っています。ただ、「重要」を選んでいる比率は非同族のほうが多く、全体でも6%多かったので、若干、非同族のほうが技術には関心が高いと言えそうです。
同族は長年の経営でこだわっていること、まとっているものがたくさんあります。経営を維持してゆくのに大事なものは暖簾だのブランドだの信用など、いろんなものがあります。しかし、非同族にとっては、自分が経営している年数が勝負です。その結果として、このような評価になったと考えられます。
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