経営年数100年以上の企業の経営スタイルと経営哲学を研究しています。調査・研究成果を発表してゆきます。

2011年08月

第22回:経営上で重視する分野

これは経営者に7つの質問をして、それに対する答えを、ヒト、モノ、カネ、技術、情報、経営哲学に分けたものです。下記が得点数と平均点でした。

質問は

 :過去の経営危機はいつ、どのようなものだったか
 :経営の危機をどのように克服したか
 :なぜ、長い歳月にわたって生き残れたか
 :よい経営には何が必要か
 :よい経営の継承の仕方、後継者の選び方
 :経営権と株式について
 :経営者の驕りをいかに防いできたか

というものでした。

ヒト:4.0 モノ:3.8 カネ:3.9 技術:4.1 情報:3.3 経営哲学:3.9

技術がわずかですが第1位になりました。技術は今回に行った経営者アンケートの質問「後継者として、先代から受け継ぐ重要なこと」でも6項目の中で第2位に入っており、今回の調査では経営の構成要素の中で高い位置を占めました。これは調査での大きな気づきでありました。
いままで経営の重大要素はヒト、モノ、カネと言われてきた時代から、新しい経営の構成要素が認識されている時代が始まっています。それだけマーケットや企業間での優勝劣敗や下克上が激しくなり、かつてのように、取引実績や人間関係、ブランドだけで注文をとることが厳しくなっていることを反映していると考えられます。老舗企業の経営者は、そのことを敏感に感じとって、「技術」「創意工夫」で勝負しなければならない、という認識を示したのでしょう。
技術と言っても、製造業に限りません。飲食業でも、調理の技術や顧客接遇の技術で、独自の方法を行っている企業があります。営業では販促や販売の技術、というのもあります。これは他社との差別化の最たるポイントと言えるでしょう。

そういえば私が所属しております出版業界でも、中公新書で一時代を築いた中央公論は倒産して、読売新聞の傘下に入りました。いまは著者の名前で本を買う人がほとんどで、出版社のブランドで本を選ぶ人は限られているでしょう。「同じテーマなら、値段が高くても岩波文庫を選ぼう」と考える人は、かつてはおられましたが、いまはどれぐらいおられるでしょうか。
ましてや講談社を、小学館を「同じ著者ならこの出版社を選ぼう」という読者を探すのは至難だと思います。出版業界はまだ日本語という非関税障壁で守られて、外国と勝負をすることはほとんどありませんが、他の業界では日常的に国内外での競争に曝されています。いま、技術による優勝劣敗があらゆる業界で起こっているのではないでしょうか。そこで技術にこだわっている長寿企業の戦略は、さすがだと言えます。

人口も国土も10倍のインドで、あまりに違う出版ビジネスモデルに驚愕

当社では、いままで日米間、日中間の出版活動を行ってきました。それは日本の本を米国や中国で翻訳出版をする、あるいはその逆を行うという活動でした。多くの場合は、日本国内の著者の希望が発端で、多少のコストは負担するから、米国で、中国で、私の本を出版してほしい、というご要望です。

昨年、インドでの出版の希望をもたれた著者があり、我が社で5刷まで売れた、人材マネジメントの考え方をまとめた本を英語にして、インドで出版しました。一度もインドに行くことなく、インド大使館の文化担当官と相談をして、実績のある出版社を選び、そこに企画を持ち込んで、費用関係の条件などをメールでやりとりをして詰めていきました。
そして本が出来上がったのが2011年4月。それからPRをして、7月には本を発売をするというので、時期を待っているうちに、インドをよく知っている著者が、「ほんとうに約束の初版部数を作ってくれているでしょうか。だまされているんじゃないですか?」と言われるのを聞いて、確かにわからないし、行ったこともないインドの出版でこのビジネスを成就しようと考えるのは甘い。またこのまま放置しておくと、著者の懸念を無視することになってしまうので、自ら出かけていくことにしました。8月4日のインドエアでデリーに飛びました。
初めてのインドで、珍道中でありましたが、旅行にまつわる細々としたアクシデントはここでは書かないこととします。
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第21回:資金繰りでは何にこだわっているか

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第1位は実際にいくらのお金が入って、いくら出ていって、いくらが残ったか、という純現金収支でした。これをプラスにしていけば、期間と時期の誤差はありますが、経常収支も必ずプラスになります。入ったお金、出たお金、残ったお金をグラフにすれば、年間でどの時期にどれぐらいのお金がいるのかが、あらかじめわかりますので、資金計画が立てやすくなります。第2位は月末にいくらの現預金が残っているか、という数字でした。そして、第3位にいくらの借入金が残っているかの借入残高でした。

純現金収支は、フリーキャッシュフローといわれるもので、営業活動による現金収支と、投資活動による現金収支の合計で表されます。売上総利益から販売管理費を引いて、営業利益がプラスになっていても、設備や土地、債権などで大きな投資をしたら、その分がマイナスになります。逆に、それらを売却して現金が入ってくれば、プラスになります。その時点で固定資産が流動資産に振り替えられます。ここで流動比率が上がるので金融機関の思し召しは良くなりますが、所有資産は減ります。

そういう条件の下で、純現金収支にもっともこだわっているというのは、長寿企業は土地などの固定資産の大きさでもっているように見えがちですが、心がけているのは、流動資産で、現金にこだわっているのがわかります。それは土地に投資をするよりも、さらに保守的と言えるでしょう。

第20回:貸借対照表の何にこだわっているか

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それにしても、ここまで自己資本比率に集中するとは考えていませんでした。「企業の価値は要するに自己資本比率でしょ」と長寿企業の皆さんから言われている感じがします。これは経営の安全性、安定性を何よりも一番に考えているということです。
自己資本比率を上げるには、利益を出して、利益準備金などを蓄積してゆくこと。次に、社長や外部の法人、個人がお金を出して、新株を買って増資をしてゆくこと。この二つです。
取材をしたある長寿企業は、血縁3代目の社長さんですが、「株は全部親族がもっているので、配当する必要がありません。利益はそのまま残るので、無借金ですし、自己資本比率は70%を超えています」と言われてました。普通の同族企業は逆なんですね。全部同族で株をもっているから、配当を全部手にして潤っている、ということです。
取材をした長寿企業ではない運輸関係の会社は、創業者の先代から会社を継承したときには、自己資本比率はヒトケタ台で潰れかかっていたらしく、そこから30年たち、現在は65%までもってきたと言われてました。資本金は1,100万円ですから、それほど大きくありませんので、新株発行ではなくて、利益を出して蓄積してこられた、ということがわかります。素晴らしい2代目さんです。

当社・出版文化社は、最初に資本を出していただいた方々が8人おられ、亡くなられて買い取っていきましたが、現在も当時の外部株主さんが2人おられます。それに10年前に社員持株会を発足させましたので、ほぼ毎年、配当金を出してきました。時には株主さんに再投資をしていただくために、50%の配当をしたこともありました。よって、利益の蓄積はあまり大きくはなく、自己資本比率は20%程度です。今年は新株を発行する計画をしており、増資による自己資本比率をあげることを考えています。
こだわりの2位には流動資産がきています。現金、および1年以内に現金化できる資産がいくらあるか、ということに関心があるということです。第3位には長期借入金を代表とする借金への関心の高さとなりました。近年は税務当局の指導により1年未満に返済する借入を流動負債、1年以上にわたる借入を固定負債に入れるようになったので、より明確になりました。

第19回:損益計算書の何にこだわっているか


長寿企業がこだわっている損益計算書の項目は1位と2位に利益関係が上がっており、売上よりも利益が大事と考えていることがわかりました。それは成長よりも、事業継続を大事に考えている傾向が強い、と解釈できます。調査対象企業はすべて非上場会社なので、利益を出して、株主に還元する、という差し迫った必要はありません。それでも利益にこだわっているのは、企業を永続することこそが、最大の目的ということです。営業利益から当期純利益までを合計すると213件、全体の66%で、実に2/3社が利益に一番にこだわっていると答えています。

思い出しますと、アマゾンやソフトバンクは初期のころ、なかなか利益がでない時代がありましたが、綱渡りの資金繰りをしながらも、売上重視で走っていました。ジェフ・ベゾス氏と孫正義氏は天才的な経営者ですから、その時代に企業を急拡大させて、その後、利益がでる経営へと移行していきましたが、多くの企業は、その過程で潰れてゆきます。
逆に、長寿企業の売上に対するこだわりは18.6%です。5社に1社もありません。売上を追ってはいない、ということを多くの長寿企業が明確に打ち出しています。会社の業績には、(1)増収増益 (2)減収増益 (3)増収減益 (4)減収減益の4つがあります。(1)はもっとも経営者にとって経営しやすい業績であり、環境です。打つ手の多くが当たり、会社も社員も活気づいて、社員がもっていたさまざまな不満も、(1)の状態で有れば昇華してゆきます。長寿企業を含む、ほとんどの企業は、こういう状況になることを望んでいます。
一方、(4)の状態は、固定経費や販管費を削減する、または社員数を減らすか、起死回生のヒットを打つなどの方法で挽回しないと立ちゆかなくなります。会社の雰囲気が悪く、社員が退職してゆき、残った社員の仕事が増え、不満が溜まっています。ヒト、モノ、カネ、技術、情報、哲学に、何らかの手を打たないと、ズルズルと後退するばかりになります。
残るは(2)(3)です。多くの企業はこの2つのいずれかの状態にあります。概ね横ばいと言っても、数字を厳格に解釈すると、どちらかに入ります。この2つのうち、長寿企業のほとんどは(2)を選びます。なぜなら、企業の存続を考えたとき、売上は伸びるけれど、利益が減っているのは危ないからです。売上が伸びるときは、資金の回転が速くなっているはずです。早くしないと回収遅れは資金ショートの危険が増し、企業のリスクが増大することになります。
一方、(2)の状態は利益は確保できているなら、資金の回転は急がなくても、ゆったりと資金繰りができます。取引先の都合に合わせることができるので、より円満な取引ができることにもなります。ただし、売上が伸びない以上、組織の拡大はありませんので、社員のポストは増えません。売上が増えないということは仕事が増えていないので、若い人や新卒を採るのも難しく、会社の平均年齢は毎年1歳ずつ上がります。長寿企業では社員への精神的なケアに注意が注がれており、イコール社員を大事にする、という社風が育つのは、このような経営数値のこだわりからも、読みとれることがあります。
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