経営年数100年以上の企業の経営スタイルと経営哲学を研究しています。調査・研究成果を発表してゆきます。

2011年04月

第5回:連結の社員数と売上高、社員持株会の有無

 
  • 成功長寿企業の平均社員数は229人
  • 平均売上は138億円
  • 社員持株会がある企業は35.1%
  • 社員持株会の株式所有比率の平均は15.4%
  • 社員持株会への社員参加率の平均は34.2%

 今回の調査は、東京商工リサーチの所蔵データから、ある企業群は除きました。それらは金融関係会社、上場会社とどこかの会社が過半数の株式を所有するいわゆる子会社、学校・病院・宗教関係を除いた法人企業です。100年以上の売上高の大きい企業順で1,500社に出し、320社の返信をいただいたので、他の老舗企業の研究内容よりも、企業規模が大きくなりました。平均の社員数は229人。最大値は7,400人、最小値は13人。全法人企業の平均の社員数は9.5名なので、かなり大きく、優秀な企業群でした。また、平均売上は138億円、最大値は712億円、最小値は1億8千万円です。

 これらの会社における社員持株会について聞いてみました。有るのは35.1%。株式公開会社の95%には持株会がありますので、やはり流動性のない株に投資をする社員会や従業員は少ないということですが、これは非上場で株式所有を社員に拡げている会社が多くはない、という事実でもあります。社員持株会は、社員が自主的に始められるものではなく、経営者が経営方法の一つとして、特に人事施策の一つとして採用するかどうかが起点でありますので、社員に株式を分ける経営者がいる非上場会社で、株式を購入する社員達がいる会社が3社に1社と考えると、35.1%が少ないとは言えないと思います。

 持株会での株式所有比率は平均で15.4%です。経営の重要事項の判断に加われる33.4%をはるかに下回っていますので、持株会があっても、経営陣が持株会を通じて、社員の経営参加を積極的に進めようと考えている所有比率ではないと考えられます。ということは、いわば配当優先株式のように、利益が出たときに、社員に還元をするという意味での持株会という性格が強いと言えるでしょう。
 また、持株会のもう一つの大きな機能は、非上場会社にとって「経営の透明性を高める象徴」になるということです。株式をもっている以上、総会に参加する権利が発生し、会社の決算を説明した営業報告書を受け取ることができます。よって、会社の経営数値を入手できるので、そういう意味からの経営参加が可能になります。

 社員持株会への社員の加入比率は平均で34.2%でした。東京都内における企業の管理職比率は23.8%なので、社員持株会は管理職+10%の一般社員により構成されていると予測できます。
 ただし、社員持株会は今回調査の長寿企業全体の1/3に導入されていますので、そのうちで1/3の社員が株をもっているということは、長寿企業の社員は非上場会社の中ではたいへん恵まれていると言えるでしょう。

 最後に、社員持株会がある会社と無い会社の規模を比較すると、社員数で280人と202人でした。持株会のある会社の規模は無い会社の1.4倍になっており、それだけ社員のモチベーションを高める効果があるということです。
 実のところ、これは筆者の会社でも5年前に社員持株会を始めて、いま正社員の69%が持株会に入っており、その後、売上高が順調に拡大して、たいへんな効果を実感しております。

第4回:創業時と現在の業種

前回は、長寿企業の創業時は、どういう業種が多いかを見ました。今回は現在の業種と比較して、その差異と要因を考えてみます。

創業時と現在の業種

これが平均144年の間に変遷した業種です。全体の転業率は16%。このカテゴリー分けの転業以外で、取扱商品を変えたのも含むとさらに増えます。転業率では水産・鉱農業と金融業は母数が小さいので参考になりませんが、他は建設:5%、食品製造:16%、その他製造:27%、流通業:10%、非製造業:18%となっています。


建設業が増えています。近100年のうちGDPがマイナスになったのは1922、23、93、98、99、2001、02、08、09年の9回。GDPが不明な戦時中と合わせて14回がマイナス成長と考えますと、86年間はプラス成長してきました。よって建設業は良かったのでしょう。転業率が最も低く、社数を増やしているのは大健闘です。


食品製造の社数が変わっていないのは5社が出て、5社が入ってきたからでした。それ以外の会社は144年間、ずっと食品を製造してきました。たいへん素晴らしい。創業者が作った食品と販売地域の選択眼が子孫を繁栄に導いたと言えます。


その他製造がもっとも社数を減らしています。食品以外の製造業には厳しい時代がうかがえます。7社が流通業に転身しました。戦後まもなくのころは、日清紡でもナベカマやアイスクリームを作って、売れる物は何でも売って糊口をしのいだといいます。


流通はもともと119社と最大でしたが、11社減って19社増え、差し引きで8社増やして127社になりました。この144年には、有為転変がありましたので、その時の情勢にあわせて商品を変えてきた結果、流通業が多くなったと言えそうです。非製造業は今でいうサービス業です。運輸業や理髪、整体などが考えられます。


衣食住でも衣は我慢できても、食と住は我慢の限界が低いので、ビジネスとして強い、ということが、ここからもわかります。

第3回:創業時の業種はどういうものだったか

 

有効回答319社のうち、無効回答を除いて、以下のような業種になっています。

水産・鉱業・農林:9  建設:38   食品製造:33  

その他製造:74  流通業:120   金融業:1  非製造業:44

流通業が120社で37.6%ですから、1/3は流通業でスタートしました。時代を乗り越えて来るには、しなやかな経営が必要です。平均の創業年であった144年前からすると、明治維新や関東大震災、2回の大戦があり、神戸淡路大震災もありました。かなり厳しい時代であったと言えるでしょう。また、今回の大震災でも、存続の危機を迎えている企業があるかもしれません。

流通業というのは、柔軟に市場の変化や社会の変化に対応できるので、多くなっています。また、もともと元手がなかった、という事ともつながっているかもしれません。流通業は、本人の信用さえ有れば、とりあえず仕入は後払いででき、売って現金に変わったら、それで仕入れ先に支払をする、という方法が採れますから、始めやすいと言えるでしょう。

次の「その他製造」ですと、とりあえず作るための何らかの設備が要ります。原材料も要ります。松下幸之助さんだって、最初は自宅の畳を上げて、土間を作って、そこで電気ソケットの鋳物づくりを始めたと言います。創業者の多くはお金のないところからスタートしています。

第2位が建設、食品ではない製造業です。さて衣服や桶や大八車を作ったのでしょうか。きっと無口だけれども器用な大将と気だてがよくて、かわいい女将さんが始めたお店なのでしょうね。今日まで百数十年もの間、続いてきたわけです。このころすでに食品製造よりも建設業のほうが多かった、というのは意外でした。やはり衣食住は強い、ということです。

第2回:倒木更新――大政奉還後の起業

 

2010年8月に老舗企業1,500社に郵便によるアンケート調査を行いました。東京商工リサーチのデータベースから、経営年数100年を超える法人事業者で、系列子会社や持ち株会社、学校や宗教法人を除いて、規模の大きい順に依頼しました。330社(21.3%)から返信がありました。平均売上は13,875百万円、平均社員数は215名でした。規模の大きい会社から降順でとりましたので、平均はかなり大きな会社となりました。

 

 これらの会社の平均の創業年ですが、回答各社の経営年数を出して社数で割ると、144年となりました。つまり2010-144年=1866年(慶応2年)ですので、日本は明治維新が始まる直前のころ。3月7日には薩長同盟が成立し、同9日には坂本龍馬が寺田屋で襲われる事件が起きます。

 この頃、武家社会ではすでにほころびが大きくなっており、ついに大政奉還が成ったことを多くの武士は衝撃をもって受け止めたことでしょう。この調査は100年以上の企業が対象ですから、144年未満で100年を超える会社は、間違いなく大政奉還からその後の大きく変貌していく日本の中で、新しい会社なり、店を創業された方々です。そういう会社は、330社のうちの231社(70%)になりました。倒木更新。徳川幕府の崩壊と明治維新が起業の大きなきっかけになっていることがわかります。

 こんなシーンが目に浮かんできます――幕府とお仕えしていたお家が新しい時代の波に翻弄されているのを見て、ひげ面の武士が「これじゃ、武家も長くねえな・・・」とポツリ。行く末の相談を奥さんとした結果、二人で商売を始めよう、と話がまとまった。まずは大家さんに許可をもらって、家の前で魚を売ることから始めた。夫は仕入に、妻は販売に、お互いの車輪がグルグルと回りだし、お愛想のいい女将と、旦那の生真面目さが評判を呼んで、いずれ大通りに小さな店を出せるようなった。時は明治維新を挟んで激動のまっただ中。血なまぐさい風も流れるが、そこは飲食関係の店は強い。世間が落ち着くにつれて、徐々に店は勢いを増してゆく・・・。

これはアンケートの返信を見ながら、私の勝手な想像ですが、あたらずとも遠からず、という創業者が、このアンケート企業の中には結構あるだろうと思います。

第1回:成功長寿企業への道

朝の新聞を開くごとに、亡くなられた人々の数が増えてゆく。なんといたたましいことか。心臓がギューッとわしづかみにされるような感覚に襲われるのは、私だけではないだろう。心よりお悔やみを申し上げ、被災された方々の一日も早い復旧を、衷心よりお祈りいたします。
 
私はビジネス書の出版や、社史の企画・制作、アーカイブ業務を受託する会社を経営しています。と同時に、青学大大学院後期博士課程に籍を置き、「長寿企業の経営スタイルと経営哲学」を研究しています。
 
この研究を始めた理由は、社史やアーカイブを扱っている会社なので、長寿な組織にはもともと関心があったこと。次に、自身が経営する会社は27年目になり、そろそろ次世代に渡してゆく準備を始めるころとなりました。いま、53歳なので、経営者としてはこれからですが、経営の継承を万全にしようとすると長い時間がかかります。継承はどのようにするのがよいのか。経験を積んでこられている長寿企業に学ぶことから始めようというのが、もうひとつの動機でした。
 
経営者が、経営の移譲を考えるころになると、我が社にもっと大きくなってほしい、と思うより以上に、横ばいでも良いから潰れないでほしい、と思う気持ちのほうが強くなるのが、経営者心理です。
攻勢一辺倒でやってこられたソフトバンクの孫正義さんが「300年企業を目指す」*1と言われたことを受けて、「ソフトバンクも成長から経営の維持へ舵を切った」ということがわかります。企業規模は雲泥の差ですが、同じ年で、共に20代で会社を立ち上げ、同じ経営塾で学んでいましたので、多少の心象風景はわかります。
 
これから私が関わってきた社史の企画・編集、アーカイブサポート業務、そして大学院で調査・研究してきた成果をご紹介しながら、経営者や後継者の方々に少しずつ情報を発信してゆきたいと思っています。読者の方々からも、いろんなご意見、お考えがいただければありがたく思います。
毎週1回、木曜日に出す予定です。末永くお付き合いのほどお願いいたします。
 
*1:『カンブリア宮殿』(2010年7月19日放送)「孫正義の社長術」テレビ東京
 
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